読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

お出かけ手帳

誤字脱字病。書いては直す人生。

『渇き。』

映画<国内>

☆ネタバレしています☆

 

「渇き。」に出てくる登場人物は皆きっとある時点で、傷つけられ、打ちのめされ、生きることを諦めた人ばかりであり、いろんな種類の暴力で自分を表現している。その様はもう死後の世界のようで、ほとんど現実味がない。ドラックとある種の「親和性」があったのも、そのせいかもしれない。すべては別の世界で起こったこと。そう思わないと辛すぎて、この地獄でうずくまることすらできない。失踪した加奈子は自分が落ちるとことまで落ちてしまって、もう元の世界には戻れないこと知っていたようだ。

 

彼女の愛読する「アリスの不思議な国」もまた、少女が異世界へ行く。しかし少女は、夢から覚めることによって元いた世界へと帰還する。

 

加奈子がいた世界が夢ではなかったのはとても残念なことである。加奈子は本当に酷い子だけれど、それでもそう思う。

この悪い夢のような地獄から抜け出すには、自分自身が消えるしかないと彼女は気付いていたはずだ。彼女はいろいろな人を巻き込みながら、暴力のなかでゆっくりと自分の首をしめていった。恋人が死んでしまったこの世界に彼女をつなぎとめるものは、何もない。

 

一方、加奈子の父親にとって、この世界に自身をつなぎとめるものは「娘」でなく「娘を探すこと」だ。暴力でしか人と係れない彼にとって、娘の不在自体はある意味都合がよいのだろう。もう自分の手で娘を傷つけずに済む。

 

ちょっとした気遣い、優しさ。この世界に私たちをつなぎとめているのは、本来そんなささやかなものなのかもしれない。「ボク」が救われたと感じたときみたいに。

けれども、それは瞬間の出来事である、ということもまた私たちは覚えておかなければならない。それが自分を救うためのものではないかもしれない、ということも。

 

生きることは、奪うことであり、傷つけるということである。と言うのはあまりにもナイーブだけれど、だからこそ私たちは自分が生きているという暴力に対して、ある種の厳かさをもって対峙する必要がある。正論では学べない人間の弱さと恐ろしさが、この映画にはあった。

 

 

もう見たくないよ!たぶんいい意味でだよ!

 

 

渇き。STORY BOOK

渇き。STORY BOOK

 

 

果てしなき渇き (宝島社文庫)

果てしなき渇き (宝島社文庫)