お出かけ手帳

誤字脱字病。書いては直す人生。

『純と愛』 第一話から

☆ネタバレします☆
 

NHKの朝ドラは素晴らしい作品が多く「カーネーション」や「あまちゃん」は御多分に洩れず私も大好きである。「ごちそうさん」もよかった。傑作だと思うし、見ていて楽しかった。皆に愛された。

 
しかし全ての朝ドラが傑作で見て楽しい気分になる訳ではない。
 
2012年後期に放送された「純と愛」は、正直皆に愛されたドラマではなかった。うるさいとか、暗いとか、ボロクソ言う人も少なからずいた。
でも私にとっては「純と愛」はどの朝ドラと比べようもないくらい特別なドラマである。とにかく純と愛という二人が好き。
 
主人公の狩野純(夏菜)はまっすぐ正直ゆえ不器用で、何をやってもうまくいかない就活生。一方、後に夫となる待田愛<いとし>(風間俊介)はもともと何をさせても大変優秀な少年であったが、双子の弟が亡くなって以来、心を閉ざし、家出をしてふらふらと8年もの間をむげに過ごした青年だ。この二人が出会い、結婚し、人生の困難に立ち向かう、というのが、「ざっくり」としたあらすじだ。ざっくり、とさせたのは人物設定が複雑過ぎでストーリー説明がからまりそうなので、まずはシンプルなところから話を始めようと思ったからだ。
最初に言っておきたいのは、これは悲劇ではなく、希望の物語だということ。覚えておいてほしい。
 
第一話は大学生の純が宮古島の実家に帰るところから始まる。父・善行(武田鉄矢)に実家のホテルを継がせてほしいと直談判するためである。もともとこのホテルは母親の父、つまり純の祖父が建てたものだった。病気の祖母のために、いるだけで旅気分が味わえるよう建てられたこのホテルは、誰もが笑顔になる「まほうのくに」であったという。そんななか、純が小学生の頃、大阪で仕事に失敗した父が、仕方なくこのホテルを継ぐこととなった。それで純は家族と宮古に移り住むことになったのである。父親にとって宮古島にいること自体が屈辱であり、また、頑固で人当たりの悪い父にホテル業は向いていなかった。祖父が亡くなった今、純が大好きだったおじいのホテルは見る影もなく、今にも潰れそうである。このことに危機感を持った純は 、父に「ホテルを継がせてほしい。おじいが作ったような『まほうのくに』を取り戻したい」と願い出る。無鉄砲でまっすぐで不器用な純は父親を強い口調で責め立てる。お父ちゃんのせいでおじいのホテルはめちゃくちゃじゃないか。
そう言われて大人しく言うことをきく父親ではもちろんない。「ホテルは純の兄に継がせる。お前なんかに何がわかる。もうこの家には帰ってくるな。」
純も負けじと、「こんな家でて行ってやる。私はお父ちゃんよりもっとすごい社長になってやる。"まほうのくに"をもう一度取り戻すんだ!」
 
狩野家は父親の独断で何もかも決められてしまう家庭であり、母も、兄や弟も全く頼りにならない。恐らく純はその性格から子供の頃から何かと叱られ、兄弟とも気が合わず、いつもつまはじきだったのだろう。友人や恋人とも、空気を読まず自己主張ばかりするのでうまくいったことがないようである。狩野純は非常に孤独であり、共感されずらい主人公だ。
 
純がおじいのホテルにこだわるのは、純に初めて居場所を与えてくれたからだ。純に「そのままでいい」と言ってくれたのは、おじいが初めてなのではないだろうか。「女のくせに」言うことを聞かず、誰にもかばってもらえない寂しさから、救ってくれたのがおじいであり、おじいのホテルなのだ。純が帰りたいのはそこなのだ。
 
こんな具合に第一話は進み、初っ端からの家族げんか、というか、朝ドラらしからぬ家族の仲の悪さ、主人公のナレーションを含む悪態、暴言に嫌気がさす人がまあいても仕方ないかもしれない。純は正論を言っているようで、相手の言うことはきかないし、とにかく感じのいい子ではない。一般的なドラマ、特に朝ドラでは主人公は視聴者から好感を持たれてなんぼだ。そうでなければ、半年もの長い間、しかも毎日視聴し続けるのはキツい。朝ドラは主人公を応援するようにできているのだ。
 
しかし脚本家は、主人公の好感度が上がらないよう注意深く書き進めているように思える。最初の頃は特に。この気の強い、自分勝手な女の子の幸せを願えるか。
 
もちろんフックとして少女時代の回想シーンでは純の孤独やおじいの優しさもインサートされるし、純のホテルに対する並々ならぬ想いが伝わってくる。だから、自己主張が強い身勝手な子だけではないことはわかるし、全ての視聴者が第一話で見放した訳ではないだろう。
 
ただ少なくとも純は家族さえからも煙たがれているということは乗っけからビシビシ伝わってきる。特に父。喧嘩するほど仲がいい、というタイプのものではなく、憎悪さえ感じさせる。これは朝ドラとして、主人公として大丈夫なのか?
 
そんな最悪な流れのなか、父親に勘当された純がリクルートスーツで都会の雑踏を歩く姿が映し出しだされる。面接に行くようだ。人並みをかきわけていると、1人の青年とぶつかる。待田愛の登場だ。
ぶつかったひょうしに純のカバンの中身は路上にばらまかれ、二人はかがんで拾い始める。うつむいたままの青年は純の方も見もしないが、落とした鏡越しに純の顔を見て驚愕する。そしてゆっくり頭を上げ、純の顔をまるでこんな奇跡があるのかといわんばかりに見つめる。
 
ここで第一話は終わる。
 
実は愛には秘密がある。双子の弟が病気で亡くなって以来、人の顔を見ると人の本性が見えるようになってしまい、それから8年間も人の顔を見ずに生きてきたのだ。
 
トンデモな設定と言う人もあるかもしれないが、色々な悲しい出来事から対人恐怖になり人の顔を見れなくなることはあると思う。愛はそういう人をデフォルメさせた人物である。彼が恐怖するのは例えいい人に見えても、醜悪なことを考えていたりすること。誰もが言動とは違う思いが心の中にあることあること。
 
愛が純を見て驚愕したのは、純は見たままの純であったからだ。そしてそんな人はこの8年間で初めてである。
 
このドラマのすごいところは、家族より、視聴者より先に、愛に純の素晴らしさを発見させるところだと思う。
 
私達は人の上っ面でまずこの人が好ましいのか、そうでないのか、決めつけてしまいがちである。「純と愛」ではまず主人公の1面を見せ、わざといい面をあまりみせてくれない。
 
しかし愛は純が素晴らしくまっすぐであることを見抜くのだ。
 
この、いかにも問題がありそうな女の子をみせ、どう?純が特別ってわかった?とまるで挑戦を受けたような気になる。気にならない人はきっと、この物語が必要ない人なのかもしれない。
 
これから純と愛は色々な困難にあいまくり、大切なものをなくし続ける。暗い、と言われるゆえんだ。
だけど、辛い思いをしている人間にとっては大きな慰めとなった。大切なものを失っても希望は持つことができるの?
孤独とどう向き合えばいいの?
 
純を演じた夏菜はいきいきと演じているが、このドラマのせいできっと周りから色々なことを言われたのだろう、今でもすっかり萎縮したままで気の毒なほどである。あなたはやるべきことした。夏菜ちゃんは全然悪くないんだよ。
 
ちょっと話が長くなりそうなので、次回に続きます。うまく書けず歯がゆいよ。
 
追記
それにしてもこの第一話の出来は本当に素晴らしいです!ちゃんと最終回までの伏線がすでに張られています。

 

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