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お出かけ手帳

誤字脱字病。書いては直す人生。

『純と愛』第19週 おもいよとどけ(2)

☆ネタバレしています☆

 
続き。
 
次の朝ドラ再放送は『純と愛』が飛ばされる形で『あまちゃん』となりましたね。まぁ、異論はないよ!ものごとにはきっとタイミングってもんがあるもんね。アキちゃんにまた会えるのは素直に嬉しいし。
 
でも純ちゃんたちのことも、いつかよろしく頼みます!
 
さて。
 
隠し事しないって約束してよ
善行に、晴海のサイン入りの離婚届を渡してしまった純。
翌朝、朝ごはんはしっかり食べながらも、さっそく後悔。どうしよう、お父ちゃん本当に出しちゃってたら。
 
愛くんは「大丈夫ですよ」って言うけど、何より大人になろうと決めたのに父に怒りをぶつけてしまったことを後悔しているようです。
 
そんな風に朝から純が激しく心乱れていると、晴海も起きてくる。
「何の話?」と聞く母に、純は話をはぐらかします。
 
で、晴海は言うんですね。
「純、お父さんから連絡あった?ちょっと思いだしたんだけど、私、お父さんに何かひどいこといったような気がする」
 
先週の「あなたは誰ですか」発言のことです。
 
純はもちろん「言ってない」と嘘をついて、それを聞いた晴海は少し安心しながらも「これから何があっても隠しごとしないって言ってよ。私は何言われても大丈夫だから」ってお願いします。
わかった…、としか言えない純。
 
ここは純の、不安なんだけどちゃんとしなきゃっていう顔のアップが印象的に入るんですね。純は嘘が嫌いで、まっすぐに生きたいと思ってるけど、それ以上にお母ちゃんを悲しませたくない。
あぁどうしたらいいの?
「正直」こそが純の信条であり、それが揺らいでいくのは主人公の心の動きとして、さりげないけれど大きな見所だと思います。
 
 
善行、現る
純は晴海を連れて里やへ出勤。
二人を見送ったいとしは、善行が玄関付近に隠れていることをとうに気づいています。
「お父さん出てきて下さい。そこにいるんですよね」
 
善行は例の離婚届を持ってきたんですね。だけど、晴海にも純にも合わせる顔がなくて、隠れてた。あぁ、お父ちゃん…。
 
完成した離婚届をいとしに託し、「さらばじゃ!」と去ろうとする善行でしたが、その直後、離婚届をビリビリに破るいとし。ちょっと笑っちゃうくらい思いっきりやるので、「コラ!コラ!」と怒る善行もコミカル。この辺のテンションの調整がうまい。
 
「でもお義父さんも、本当はこんなことしたくないんじゃ…」って気持ちを察するいとしに、善行は「何でも上からモノ言うな!俺かて年の功や。人間の本性くらい見抜けるわい!」って怒る。
 
そこに隣りの山田さん登場です。「認知症にいい料理作った」とか言って。
 
それで、いとしは善行に聞きます。この人(山田)の本性がわかるか?と。
善行は「見たまんま、清楚で清純な方や」って即答。
でも、いとしの答えはもちろん違う。
「この人は本当は悲しい人です。どうしてかわからないですけど、この世に永遠の愛なんてないと思ってるんです。だから、純さんと僕の間を壊したくて、僕を誘惑したりしているんです」
 
驚く善行。
何の反論もできず、部屋に戻る山田さん。
 
山田さん登場時、愛くんはだいぶ浮かれた様子を見せていましたが(笑)、いくら人の本性がほとんど見えなくなったと言ってもこのあたりはちゃんと気付いています。まぁ視聴者も山田の言動を見ていたので、わかっていましたよね。つまりこの時点で、初対面でパッと見た善行だけが置いていかれている訳です。
 
もうね、あらゆる面で善行は遅れをとりまくっている。
 
 
何百キロも何千キロも歩いてきたんや
純と愛の部屋に初めてきた善行。飾ってある娘たちの結婚式の写真を、じっと見つめます。
 
お茶を出すいとしに「お前、なんでそんな女みたいなことできんねん」と善行は聞きます。たぶん、本当に理解不能なんだと思う。
 
すると愛くんは善行に質問します。生まれ変わったら男がいいか、女がいいか。
「男」と即答する善行。
愛くんはそれに対し、自分も純さんと出会うまでは男だったけど、今は女だ、と答える。
 
「なんでや」
「男の人はズボンしか履けないけど、女の人はズボンとスカートどっちもはけるんですよ。すごくないですか?」
「言うてる意味がわからん」
 
「男って、つまらないプライドや見栄があるからダメな気がするんです。所詮女の人がいないと何もできな…」
「俺はなぁ、もうお前みたいな考え方はできへん。俺は俺のまんまや。何百キロも何千キロも歩いてきたんや。こっから引き返すことはできへん」
 
サザンアイランド買収問題で揺れていた時も、愛くんは善行に同様のことを善行に言ってましたよね。男特有のつまらないプライドや見栄は捨てよう、っていう。それは、このドラマの大事なメッセージのひとつでもあります。
 
善行もね、ここまで落ちたのでそれはわかってるはず。頭で理解するところまではきてる。
でもね、この年で生き方を変えることが、どれだけ難しいか。自分なりに、一生懸命頑張ってきた。でも何も上手くいかなかった。「俺は俺のまんま」という諦め。
純と愛の結婚式で、善行は純のことを「自縄自縛」って言っていたけれど、本当にこれは善行さんをよく表している言葉だと思います。
 
「何百キロも何千キロも歩いてきたんや」っていう言葉は、今までの善行の孤独な道程が想像できる素晴らしいセリフだな。武田さんのしょぼくれた感じもすごくいい。善行さんは、人に弱みを見せたがらない人だから、威張ってる割に、自分の苦労は見せてないんですよね。
その苦労を少しでも誰かと共有できていれば…。そうすれば、もう少し素直になれたのかもしれないね。純だって愛くんがいたから、最近「変わる」ことを受け入れたんだから。
 
別に女になれ、っていう話じゃないんだよ。ただ、「こうじゃなきゃいけない」っていう従来の社会的役割から、もう少し自由であってもいいんだよ、っていうことなんですけれどね。
あぁ、善行さん…。
 
蛇足ですが、放映時、私は会社の休憩室でこのシーンを見てたんですね。で、愛くんが「女はズボンとスカート両方はけてすごい」って言うのを聞いて、一緒に見ていた男の先輩が善行と全く同じタイミングで「言ってる意味がわからない」って言ってたんです。善行みたいな言い方で。
先輩と言ってもまだアラサーで、オオサキの水野さんに見た目も中身も激似だったんですが、その彼が善行に瞬間的に共感していたのが忘れられない。あぁ、若くてもこうなのか、と。
ま、その後私はそいつと大ゲンカして、会社辞めることになるんですけど(笑)。でも、あのまま黒水野や善行みたいに生きていくのかもしれないと思うと、むかつくと同時になんだか気の毒でもある。がんじがらめに生きるのは大変なことです…。
 
 
「晴海さんは美しい人です」
そんなら行くわ、と言う善行を引き留めるいとし。古い手紙を手渡します。
それは、かつて善行が晴海に宛てた手紙でした。その手紙を大切にとっていた晴海。
 
いとしは言います。
「お義母さん、『昔お父さんに貰ったのよ』って嬉しそうな顔で何度も何度も読んでくれるんです。その頃の気持ち、今も全然変わってないんじゃないですか?」
 
善行はハッとしたまま、外に出て、ふらふらと道の上に座り込む。自分が書いた手紙を読みます。
晴海さんは美しい人です。あなたが一緒にいてくれたら、僕はもう何もいりません。晴海さんが今のまま宮古の海のような美しい心で僕を愛してくれさえすれば。晴海さん、僕を愛してくれませんか。
 
純は、愛くんにプロポーズをして、これから二人で生きていくと決めた時、「この人さえいてくれれば、何もいらない」って思うんですけれど、善行にもそういう時があったんですね。私はいま泣いていていますよ。
 
あのお父ちゃんがさ、「僕を愛してくれませんか」なんてさ。そんなことを言えた子が何故、時を経てこんなに苦しい思いを抱えたおじさんになってしまったのか。
 
晴海だってね、そんな手紙を貰ってきっと死ぬほど嬉しかったはずなのに、何故夫を安心させるほどまで愛することができなかったのか。正直になれなかったのか。
 
ちょっとしたズレと保身が積み重なって、善行と晴海は、「夫婦」という呼び名のついた不幸な関係を結果的に作りあげてしまった。
でも、山田さんが示唆していたみたいに、スタートの時点では幸せな二人の関係があったわけです。
 
やっぱねえ、この二人の人物造形や関係性って凄くよく描けていると思うんですよねぇ。こういう夫婦っていっぱいいる。もう、国とか関係なくいっぱいいる気がする。
 
ただ、ここから興味深いのは、善行はかつて自分が書いた手紙を読んで、「晴海さえいてくれれば」って思っていた頃の自分に回帰する。急にドラマチックに動き出すんです。ファンタジーにすらなっていく。
善行はこのドラマに大変「重い」ものを背負わされました。人間の弱さからくる暗部を全て背負っています。
でも、この手紙が出てきて、そういうものからやっと解放されていく。救済されていく。これは物語だからこそできることなんだと思います。あまりにも悲しいやり方ではあるんですけれど。
 
あとはね、やっぱり最終的には自分なんだな、と。善行は純をはじめ、今まで家族に説得されてきたけれど、結局この人を変えたのは過去の自分だったっていうね。出てくるのが晴海から貰った手紙でなく、自分が晴海に出した手紙っていうのが、上手いなと思った。
 
 
始まりは終わりである
晴海と生きていきたい、と切に願っていた気持ちを取り戻した善行。いとしの父である謙次にお金を借りに行きます。
宮古に帰って、残りの人生を晴海のためだけに使うと言う善行。多恵子と向き合うことができなかった謙次は、そんな善行にある種の感嘆を見せます。
「立派です。死ぬまで奥さんとの愛を貫くなんて。僕は諦めた…逃げ出した男だから…」
 
妻との関係に悩んだ、中年男たち。別々の道を選んだふたりの行く先は全くの別世界で、もう交わることはありません。
 
意を決して、晴海のいる里やの入口へ来た善行。手には謙次から借りた束になる程にお金が入った封筒。
これでやっと幸せになれる。いや、家族を幸せにすることができる。
 
善行が里やへいざ入らん!というところで純が飛び出して正面衝突。晴海が書き置き一つ残して消えてしまった、というのです。
"メロちゃんに会ってきます"
 
「俺や!俺や!お母ちゃんな、恋人やったとき、俺のことそう呼んでたんや!」
 
純はなんで?と聞きますが、それどころじゃない、今はお母ちゃん探しに行こう、と急ぐ。
 
父と娘は海へ向かいます。
認知症と診断されたあの日、「宮古の海はもう見れないのだろうか」と晴海が涙した、大阪の埠頭。
もうすぐ、日が沈みます。
 
ふた手に分かれ、善行は必死に妻を探す。おーい。おーい。
 
防波堤の上に座り、ひとり海を眺める晴海。
「メロちゃん…メロちゃーん!」
自分を呼ぶ晴海を見つける善行。
「晴海さーん!」
 
晴海の元へ笑顔で走ってゆく善行。
善行の声に気づいて、振り返る晴海。
メロちゃん!
 
その刹那、二人はずみずしい気持ちを抱いていたあの頃に戻ります。
 
しかし、それはほんの一瞬の幻なのです。
 
笑顔が消える善行。晴海は振り返ったことでバランスを崩し、海に落ちてしまいます。
善行は自分が泳げないことも忘れて、海に飛び込み、晴海を助けます。ブイにつかまらせて。
そして、善行はゆっくりと海に沈んでいく。晴海へ宛てた手紙が、もう一度善行のナレーションで流れる中で。
晴海さんは美しい人です。外見だけやありません。心が本当に美しい人です。あなたが一緒にいてくれたら、僕はもう何もいりません。晴海さんが今のまま宮古の海のような美しい心で、僕を愛してくれさえすれば。晴海さん、僕を愛してくれませんか?
 
善行と晴海のラブストーリーはここで終わります。二人がもう会うことはありません。
 
恋愛を扱った物語は終わり方が難しい。気持ちが通じたり、結婚して終わらせるものが圧倒的に多いのは、やはりそこが気持ちの高まりの頂点だから。そこを通り過ぎた日常は、気持ちの置きどころが変わってしまう。
やっぱりハッピーエンドがいい。
 
結婚直後で幸せ絶頂の純も、「まるでドラマの最終回のようだ」と浮かれていた気がする。(それを愛くんはたしなめていた。)恋愛して、結婚して。そしてそのあとに待っているのは現実です。全然甘くない。
 
で、善行と晴海はどうなるか。絶頂期への回帰です。これも恋愛映画などでよくある終わり方ですね。崩れ切ったところまで見せてから、最後の最後に二人が最高にハッピーな頃に時間を巻き戻して見せる。
それを善行と晴海は、脳内だけでやったんですね。
 
でもやっぱねえ、それは危険なことなんだろうなぁと。本人達が本気で過去に遡っていくっていうのは、リスクが伴う。だって時間は巻き戻すことができないから。思い出を大切にするのと、善行と晴海のように、気持ち自体がタイムスリップしてしまうのは意味が違う気がする。つまりこの二人は最後まで「現在」の瞬間に焦点を向けることができなかった。お互いの「今」を認め合っている訳ではない。ズレがあった。
 
晴海が振り返ったことで海に落ちたこと、昔の自分の気持ちがエンジンとなり行動してしまったことで、ふたりが命の危険に晒されるのは、物語上ではある意味なるほどな、と思ってしまいます。
 
(大事なことなので強調したいと思いますが、これはあくまでも「物語上」での流れの話なので、現実の海の事故だとか病気だとはもちろん別の次元です。)
 
自分が誰かを大切に思っていて、その人もどうやら自分を思ってくれている。そう感じることが、いかに人生において素晴らしくかけがえのないものであるか。
 
善行と晴海は、その多幸感を一瞬思い出し、そして別れていったのです。
 
 
更に続く!
 
(もうちょっと進める予定だったけど、今回はここまでが限界。どうなるかわかってるからこそ、善行さんにもっともっと幸せになって欲しいと、ここにきて思ってしまいます。きっとこのドラマで一番憎まれたキャラだけど、見直して最も思い入れが深くなったのはお父ちゃんだよ。もうこれ以上は引き延ばせないね。いよいよ次回は、避けられん。あぁ、書きたくないなぁ。)
 
純と愛 完全版 DVD-BOX3<完>

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