お出かけ手帳

誤字脱字病。書いては直す人生。

『大丈夫、愛だ』を見ながら『月の恋人』について考えたことなど(13話まで)

☆タイトルにある2つのドラマのネタバレがあります☆

 

『大丈夫、愛だ』を少しずつ見直し始めたんだけど、よく考えたらこの話、私がどハマり中の『月の恋人-歩歩驚心 麗』 とやっていることがかなり被っている…。同じキム・ジュテ監督の作品なのに、何故に全く気付かなかったのだろう。あぁ節穴だよ、私は。脚本家の方が違うからって、油断していた。ばかばか!

だいたい主人公の名前、チ・ヘスって…。『月の恋人』のヘ・スとほぼ同じじゃないか。

 

『大丈夫だ、愛だ』では、暴力、虐待、兄弟、母親、トラウマ、罪、偏見、人物像や価値観の反転、人を信じことができるか、人間は変われるのか…っていうテーマを精神疾患と絡めて扱っているんですが、『月の恋人』はそれらのテーマを高麗の皇宮を舞台に描いている。びっくりするくらい、同じテーマが出てきます。

 

恋愛恐怖症の主人公チ・ヘスは、なんだかんだあってジョヨルという売れっ子イケメン小説家と付き合うようになるのですが、彼のお兄さんは刑務所に出たり入ったりしてる荒くれ者なんですね。弟を憎んでいて、出所してもまた弟を刺して刑務所にまた入るような。また兄役はヤン・イクチュンっていう、見るからに狂暴で手が付けられなそうな雰囲気を醸し出した俳優さんが演じてる。お母さんは菩薩のような優しい人で、正反対の息子たちをいつも気にかけています。

だけど…話が進むにつれて、この家族3人の人間像はそれぞれ全く別のものになっていく。キャラクターを見せる視点を動かしていくんですね。その反転に驚きながら、人間の心の深部について考えさせられます。情報の出し方が見事。

 

このエントリを書いてる時点で、『月の恋人』は13話まで進んでいますが、作り手は『大丈夫だ、愛だ』と同じようにキャラクター達の印象をかなりコントロールして視聴者を揺さぶっています。特に第4皇子ワン・ソと第8皇子ワン・ウクの描写には細心の注意を払っている。ジョヨルと兄の対立を思わせます(ただし、この二人は母親を巡って対立するのですが)。ウクがジョヨル、ソが兄にあたる感じ。

 

月の恋人』では、お話が始まってすぐに皇子たちはワン・ソの悪い噂をし、ソが母に顔を傷つけられたことや養子先から受けた虐待、目的のためなら手段を選ばない残虐的な面も早々に見せました。憎しみを抱いている孤独な人物として物語世界に現れた。

一方ウクはとにかく高貴で優しく、小間使いのチェリョンには「うちの皇子様が一番」と紹介させています。実はウクの一族はかつて皇宮を追い出されており、彼もなかなかに苦労をしてきたのですが、その理由も詳細もちょっとずつしか出てこない。彼が憎しみを抱く人物に見せないためです。没落話がちょっと出てもウクは「忘れた」と言っている(その分、同じ経験をしたウクの妹・ヨンファが一族の暗黒面を一人で引き受けています)。

 

へ・スは優しいウクに惹かれ心通わせますが、女官として茶美院に入ってからはソとも距離を縮めていく。ここから視聴者はウクとソの間で揺れるシーソー・ゲームに振り回されるのです。大きく揺れるのはヘ・ス以上に、視聴者っていうのがすごい。

 

ソは話せば話すほど、好人物であることがわかります。しかし、ヘ・スとソが完全に信頼し合った直後に、ヘ・スはソこそが「血の君主」と言われる皇帝「光宗」になるのだと気づき、震えあがる(8話)。ウクに「ソに気をつけて。もう早く茶美院から出たい」と泣きつくほどに(9話)。そこでウクは皇位を捨てヘ・スと結婚しようとしますが、「権力がないと怖い目に合う」というトラウマを持つヨンファがそれを邪魔し、ソが命がけで陥れられたヘ・スを助けようとする(10話)。ウクは冤罪で捕まったヘ・スを助けたいけれど、妹が絡んでおり一族全ての命がかかっているため、ヘ・スを見捨てる選択しかできない(11話)。

 

11話までどっちの皇子を信じるべきか大変な揺さぶりが続きますが、ここまでソとウクは直接対立してないんですね。見ている方は「あぁもうこれはワン・ソだわ」って思うんですが(笑)、本人たち的には12話になってやっとヘ・スを巡って対立し出す。しかも12話の時点ではヘ・スがひどい目に遭ったのは二人とも「お前のせいだ」と責め合っています。言われてみれば、ヘ・スが巻き込まれた皇太子暗殺未遂事件は、ソの母親とウクの妹が結託して起こしたので、まだイーブンっちゃイーブンなんですよ。ヘ・スの拷問はどっちも止められなかったし。ヘ・スの婚姻騒動の時もそうだけど、この二人は真にヘ・スを救えていない。なぜなら、それができるほどの権力をもっていなかったから。2度の危機でヘ・スは目に見える形で傷を負っています。

 

その流れで、今度は初代皇帝が亡くなり、ソとウクはやっと「皇帝になる」宣言をそれぞれする(13話)。権力のトップを取らないと、二人の対立は決着がつかないからです。ここまで長かったけど(笑)、この積み重ねがないと皇位も恋愛も絡めて二人が対立する説得力がないのだよ。イ・ジュンギとカン・ハヌルの一騎打ちシーンはめっちゃ手に汗握ったわ。カッコよかった!

 

でも、男同士の対立が激しくなる一方で、ヘ・スとウクは皇位絡みでお互いに嘘をつかざるをえず信頼関係が崩れちゃうんですよね…。特にヘ・スは、自分が死にそうになった時に助けてくれなかったことよりも、嘘をつかれたことを怒る。その嘘はヘ・スを試すだけでなく、ソを殺すための罠でもありました(ウクよ…)、「ただでさえ自分のせいでオ尚宮が亡くなって苦しいのに、なぜまた同じようなことを引き起こそうとするのだ」と。「あなたは一度だって私を本当に信じてくれていたことはあったのですか?」。ヘスはウクへの気持ちが残っていたから、もしもの時はウクを助けてほしいとソに頼んでいたのに(歴史上、ソがこの時点で死ぬことはないってわかってるから)。

それでも「もうこんなことやめて、昔約束したみたいに、遠くで一緒に暮らそう」ってヘ・スはウクに誘うんだけど、ウクは「いまはもう、無理。でも君を取り戻す」みたいなことを言う。自分が好きだったウクではもはやないことに気づき、ヘスは静かに去っていきます。

ヘスは一応ここまで筋通したね。かなり筋通したよ、この子。

でも、ウクは11話で一回心が死んでいるので、変わらざるをえなかったのだよ。彼を今突き動かしているのは怒りですよね。自分に対しても、周りに対しても、超怒ってる。怒りは度を超すと、色々見失うからなぁ。

 

14話からようやく、ヘ・スはソと本格的に恋愛モードで接近すると思われますが、つまりはまだまだなんです。

それに、ソと恋愛関係になっていくためにヘ・スは絶対に避けて通れない葛藤があるはず。それは「光宗(ワン・ソ)は血の君主であった」という、未来人ならではの歴史的偏見との闘いです。

ヘ・スはもともと偏見なく人と接しますが(だからこそソはヘ・スが好き)、果たして歴史的にがっちり偏見で固められている人を信じきれるか。しかも、命を呈してへ・スを守ってくれたオ尚宮の遺言は「誰も信じてはいけない」。「皇宮では一歩一歩薄氷の上を歩くように怖がりながら生きなさい(歩歩驚心)」って言われている。

彼女はタイムスリップをする直前にも、彼氏と親友に騙されてるんですよね。高麗でウクを信じたけれど、また裏切られてしまい、いよいよどうするか。きっとそれでも、信じることを止めないとは思いますが。

 

『大丈夫だ、愛だ』のチ・ヘスも恋愛恐怖症っていう、男性を信じることに葛藤を持った女性だったんだよなぁ。「偏見」も大きなテーマだったし。『月の恋人』と比較しながら見ると興味深いです。心についてのドラマなので、キャラの心情を考える上でも勉強になる。

両方のドラマに出てるのが、ソン・ドンイルさんですね。

 

あとはそうだな、『月の恋人』の方は、皇位継承争いのせいで、人を信じられるか問題がさらに複雑になっていて面白い(宮廷時代劇ってそういうもの?)。皇位は他の皇子たちにも関わってくるから。誰が皇帝になるか。誰側につくか。誰の味方になったふりをするか。誰にも関わらないようにするか。命がけで選択しなくてはならない。

 

月の恋人』の英題がまた興味深くて、『 Moon Lovers – Scarlet Heart: Ryeo』なんですね。 Moon LoversとRyeo(麗)は原題からきてるとして、なぜScarlet Heartってしたのか。

Scarletには「緋色(濃い赤色)」っていう意味があって、単に「緋色の心」っていう、燃えるような心を表してるともいえるけれど、ドラマの内容を考えるとそれだけとは思えない。

ここからは完全に私の推測でしかないのですが(でも同じこと考えてる人は多いと思う)、人の名前を別にして、Scarletって聞いてまず思いつくのは『Scarlet Letter』です。邦題は『緋文字』で、ナサニエルホーソンの小説ですね。内容がうろ覚えだったので調べみたら、この小説は「偏見」、そして「その悪は本当に悪なのか」っていうことをテーマにしてるんです。三角関係の話でもある。

(追記2016/10/9):第7話でウクが腕輪を渡すときに「赤色は災いを避け、そして良縁を意味する」って言ってますね。さすがに『緋文字』は考えすぎなのかな…(笑)。もう少し様子をみねば。っていうか腕輪の効果あんまりなかったと今のところ言わざるを得ないがw、恋する二人にそんなの関係ないんだよ)

 

 もしも『Scarlet Letter』を意識しているのなら尚更、『月の恋人』は誰かを完全に悪く描くことはないと思います。人間には黒も白もなくて、ただどの位置から人を見るかで印象は変わってしまう。ワン・ゴンの最期とかもそういう感じでしたね。皇后ユ氏すら、だいぶ取り乱しました。罪深い人たちの弱さ。この二人はかなり罪深いから、むしろそういうところを見るのは複雑なんだけど、やっぱりこのドラマでは一元的にキャラは描かれないんだということがわかりました。

 

まだ、あと7話残っているので、どうなるかねぇ。7話で第4皇帝・光宗即位までたどるならかなり急がないといけないですね。14話の予告ではウクが超どす黒い顔でワン・ムに「皇位譲れ」って脅してたっぽいけど(笑)、絶対また何かしらでひっくり返る展開があると期待しています(じゃなきゃ、つまらん)。ワン・ソの純粋化が進んでますが、演じてるのは、あのイ・ジュンギさんですからね。みんなの罪を背負って「血の君主」と呼ばれることを引き受けた、って考えることもできるけど…。このまま、さーっとカッコいい英雄で終わるのかしらっていうのが一方であるわけです。カン・ハヌルにも言えることですが、いい意味で「善悪どっちにも振りきれる、信用できない俳優」が対立する皇子を演じてるから、ワクワクするのだよな。カン・ハヌルは役が陰って、更に輝きが増してますね。ほんとに芝居がうまい。

 

歴史を調べれば、ソが皇帝になり、ウクは皇帝にならないことはわかっているので、この対立を通してソ、ウク、ヘ・スがさらにどう心を揺らしていくのか楽しみです。っていうか歴史で言うなら、ヘ・スの存在はどうなの?っていうのもある。どっちとも婚姻の記録はありませんし。かといって、ヘスがオ尚宮と同じ道をたどるってのもな…。

 

あと、他の皇子の話全然書いてないけど、13話で第3皇子ヨ(ホン・ジョンヒョン)がソに刺された時、不謹慎なんだけど、すごく美しかった。あの顔すごくよかったです。そして、直後の予告で野生化して復活してて超驚いたよ(笑)。

14皇子ジョンのジス君もいい感じで仕上がってきてますね。大人になってきた。彼はウクと実の兄ソ&ヨとお母さんにも挟まれてるから、これからすごく微妙な立場よねぇ。同腹の兄がもうひとりの兄を刺すとこ見ちゃったしなぁ。ウク派になるのかな…。

13皇子ペクア(ナム・ジュヒョク)は一役終えた感があるけど、どうなるのかしら。ペクアはすごくいい役ですね。でも、彼があんな物語の飛び道具的存在になるとは思わなかった…。あと10皇子ウン(ベッキョン)には、絶対に生きのびて欲しいと思ってるの(笑)。そしてずっと無邪気な存在でい続けてもらわないと、血なまぐさくなりそうなお話に耐えられん。いい嫁さんもらってよかった。

日和見のワン・ウォン(ユン・ソヌ)も静かに動いてるんだよなー。この人は影が薄い分、ほんと油断ならない。

 

ともあれ、今後も何が起こってもおかしくない。歩歩驚心の気持ちをもって、最後まで鑑賞していこうと思います。