お出かけ手帳

誤字脱字病。書いては直す人生。

『麗<レイ>~花萌ゆる8人の皇子たち~』 第16話を見たよ②

☆16話以降の展開を含めたネタバレしています☆

☆まずはネタバレなしで見たほうが、圧倒的に面白いです☆

 

つづきです。

年内に何としても『麗』レビューを終わらせたい(無理っぽいけど…)&どうしても1エントリ書きたいことがあるので、ここから駆け足。

 

こうじっくり見れば見るほど、16話は本当に人間の尊厳についての話をしてるのだよなぁ。尊厳を守ろうとしたり、踏みにじられたり、踏みにじったりしながら、誰もが傷ついている回。

そして恋。恋は曲者だよ。

 

『麗』は人生のはかなさを「高麗における皇位と恋愛」っていう物凄いモチーフで描いています。皇子も女性キャラも皆、皇位争いをしなければ、恋をしなければもう少し平穏なはずなのに。。。でも抗えないのよね。人の心はたえず動いているから。

 

16話におけるウン夫妻の死が恐ろしく悲劇なのは、彼らが皇位を全く望まないにもかかわらず、兄弟の皇位獲得に巻き込まれて殺されただけじゃなく、ふたりの気持ちが通じあった最高潮のところで死んでしまったということ。お互いを助けるために殺されることを選んでしまったということでした。

スンドクの父・大将軍が泣きながら「ウンを好きにならなければ」っていうのは、まさにその通りなんですよね。だけど、一方で「スンドクが心を寄せた皇子に愛されていたなら、それでよい」とも言う。

 

『麗』は恋愛感情でほぼ全キャラの人生が狂うんだけど、それでも誰かを想う気もちを否定しないのだよね。これは最後まで貫いてる。

 

悲劇のあと、ヘスは正直に、ソは嘘をっていう、15話でウン達を匿ってた時と逆の立場になります。

 

「お前にも俺が怪物に見えるだろ。ウンを殺した」

「辛い選択だったと、わかっています」

「なぜかくまった?俺を疑っていたのか。俺がウンを殺しそうで黙っていた」 

「はい…そうです。第10皇子様も心配でしたが、皇子様に何か起こるか怖かったのです。避ければ大丈夫だと思ったのに。お互いに傷になると、あとで気づきました。だから手紙を。信じていました。時間はかかりましたが、本当です。どの瞬間も信じるほど好きだと気づきました。 

「だが、もう俺は違う。お前を見ると起きたことを思いだす。お前のせいでウンが死んだと、俺が殺したんだと思う。お前を救おうと、皇帝の犬になろうとした変わらぬ思いが、もう変わった。やめよう」

「嘘よ。嘘です」

「嘘は言わない約束だ」

 この正直さも、嘘も、二人に恋愛感情がなければありえない。

 

 

ヘスは、未来を知る葛藤(というか偏見)、人の命がかかっている葛藤を一人で背負い、判断を誤るんだけれど、この発言からして最終的には「ソと相思相愛であることこそが、自分を形作っている」と気づいて正直になったということ。「どの瞬間も信じるほど好き」ってもう、本当にソが自分の一部になってるんですよね。

このあとヘスは2年間ひたすらソを待るつだけでなく、命がけで「私をまだ愛しているか」と確認しに行くわけですが、ソからの信頼と愛情なしに自分自身のの存在自体を認めていいのかってところまで、ヘスがきちゃってるからなのでしょう。

ウン達を助けられず、ソを信じきれなかった、っていう後悔があり、そこからの自己回復にはソからの承認なしにはありえない。

 

一方、ソはヘスが好きだから、嘘をつくし、彼女を遠ざける。ソが言ってることはすごい説得力があるけど、まぁ嘘ですよね。ソと内面を同一化させているヘスも「嘘だ」とすぐに言ってますし。この別れ話のあと、ソは泣いてますしね。ヘスを守るためです。(とはいえ、ヘスが自分を完全に信じていなかったことはショックだったでしょう…)

 

それと同時にソは、この事件を機に、皇帝になることを決意してて、大将軍に「俺に皇位獲得を手伝ってほしければ、ワンゴンみたいに大事な人を捨てろ」と言われる。

「亡き神聖皇帝の言葉を覚えていますか?皇帝は国と皇室のために誰でも捨てられる時に、すべて捨てる地位。ならば誰を捨てますか?私はそれを見た後で決めさせていただきます」

 

皇位を目指しとヘスを守るためには、ソはヘスから離れざるえなくなる(乱暴に言えばウクと同じ)。

だけど、物理的にソを松岳から追い出したのはヨです。

 

 「謀反を起こした」ウン夫妻を殺害した褒美として、ヨはソに対し広大な土地を与えた上に、西京首都を見据えた新城建築の責任者に指名する。

母からも、ウクからも「ソを殺せ」って言われてたけど、ヨはついぞ殺しませんでした(皇帝なので殺そうと思えばどうにでもできるのにもかかわらず)。ただ、遠ざけてるんですよね。

それこそ、ソが近くにいると「ウン殺し」を思い出してしまう。だからヨはソを遠くへ追いやった気がします。実際、この事件の直後から、ヨは精神的にどんどん追い詰められていきますね。16話の最後のほうで「ヨは案外神経が細く、やっぱり兄弟殺しは相当心の負担になってた」って話も出ますし。ワンム、ウン、そしてワンゴンの亡霊にうなされます。兄弟殺しをしたくないんだよ、この人も。

 

ワンヨが兄弟を殺してまで皇帝になったのは、母の存在があってこそ。だけど、皇帝になったらなったで「次の皇帝ジにョンを指名しろ」ってその母から言われちゃう。

ヨは後百済の有力者の娘と政略結婚をしていて、子供もいます。皇后ユ氏は、後百済の血を引くも者に皇位を渡せぬ、っていうのがあってジョンへ皇位を引き継がせたい。

母としては「皇位は、いざとなれば簡単に引きずり降ろされる座」っていうことがわかってるからの行動なんだろうけど、ヨの尊厳を踏みにじりまくってますよ。もしヨが死んだら、ってことも想定しているわけですから。

「母上には、私は何と見えますか?人ですか?豚ですか?息子ではなく皇位を伝える種豚だとみているようです。ははは…死ぬ日も決まってないのに、何年せがむのです」

 

ヨには恋愛要素が描かれず、夫人も子供も出てこない。もちろん妻子に愛情はないでしょう。彼もまた皇位の為に自分の心を捨ててきた人なんだよな…っていうのが、皇帝なってから、どんどん表に出てくる。

しいて言えば、ヨはヨンファが好きでしたよね。でも、皇位のために契丹送りも容赦なく決めた(ヨンファが動いて、それは破談になったけど)。

皇帝としては悪政しかしないんだけど、ワンヨ自体はどんどん気の毒になっていく。「悪人」の可哀そうさ。気の毒さ。宗教とか占いに傾倒するのも、孤独と不安からです。

 

またヨは、もう一人の同腹の弟・ジョンから、この事件を機に決別宣言を受ける。

「多くの血を流して、怖くはないのですか?」

皇位は流血なくして得られぬ地位だ。お前を気をつけよ、同腹でも許せぬことがある」 

「当分国境をめぐり、皇宮には戻りませぬ」 

「好きにせよ。母上のために前方を避け、補給部隊に行け」 

「私は卑怯に生きたくないゆえできませぬ。私の運の強さを試し、陛下の罪を償わねば。ウン兄上から抜いた矢です」

 

ウンに深く刺さった矢は抜けなくて、ジョンが折った。その矢をヨに渡します。

ヨにとっては、このジョンの真っすぐさが、またこたえたはず。ヨをこんな風に責められるのは立場的にもジョンしかいないし。この直後から、ヨはウン達の幻聴が聞こえるようになってるんですよね。

また、さり気なく「母の為に死ぬな」と言ってるのが…。でも母は自分が死んだ後のことばかり考えるようになるわけで、本当に救いがありません。

 

ジョンは、宣言通り戦場の最前線で必死に戦い、2年後には将軍になってます。ちょいちょい出てくる因縁・契丹との戦争に勝って、皇宮に帰ってくる。

もうこの2年後のジョンの佇まいが、素晴らしくてですね。顔つきがいいんですよ。喋り方も落ち着いていて。描かれない2年を想像させる。戦場で色々あったんだろうな。大人になったな、と。それに、ジョンはウンとスンドクの為に、戦ってきたわけでもあり。

この変化を念頭に、監督と相談しながら1話から演じていたんだろうけれども、本当にうまい。このあたりから、ジョン(及び演じるジスくん)の株が更に上がりつづける気がするよ。

 

ジョンは、戦場から戻ってすぐ茶美院のヘスを訪ねます。ヘスは内心「ソが来たんじゃないか?」っていう期待があったから、ジョンで若干がっかりなんだけど、でもジョンとだってヘスは仲よくしてたわけで、気を取り直して喜びます。

 

ジョンは「ヘスのお茶が飲みたくて帰ってきた」。ジョンはいまだ一途にヘスを想ってる。で、ウンとスンドクのお墓に行ったよとか、穏やかにヘスに話しつつ、「出官してないか心配した。婚姻はしないのか?貴族の娘は婚姻すれば出官できるじゃないか」っていう、伏線を投入します。

ジョンの物語もどんどん動き出す。

(ヘスは「私に行くところなんてない。引退したら砂漠や海を見に旅にでる」と返事してますね。ジョンが動くのは、この返事あってこそなんだよね。)

 

韓国版とインター版の大きな違いのひとつは、ジョンのシーンの数。全体を通して、インター版の方がジョンが多く出てきます。ウクの扱いとかもそうなんだけど、インター版の方がより群像劇っぽい。ジョンは物語の最後を動かす重要キャラなのですが、韓国版ではわからないようにカットされてる(それか中国版が既に流行ったことを念頭においてるから??)。逆にインター版では、ジョンの行く先を予感させるシーンがちょいちょいあります。

韓国版は、やはりワンソが主役になるように強調してありますね。それはそれで、わからんでもない。特にエンディングを考えると。

 

16話ではインター版だけ入っている、ジョン絡みのシーンが2つあります。

 ひとつは、契丹から戻ったジョンがヨから褒美をもらう場面。兄弟2人だけで話す。これは韓国版も後々出てきますが(19話)、インター版だと先にこの情報が視聴者に与えられます。

 「おかげで国境が静かになった。褒美になんでもやる」 

「なんでもですか?」

皇位以外なら申してみよ」

「でしたら、私が長年叶えたかったことが」

この褒美が何なのかっていうことは示されないけれど、超重要なシーンです。

あと、ヨは何気に自分に歯向かったジョンの功績をちゃんと認めて、「贈り物」をしてるっていうこと自体も感慨深かったりする。

 

もう一つは、この場面に続いて、ジョンが茶美院のヘスを再び訪ねるシーンがあります。ヘスはソに会うため内緒で皇宮を出ているのでいないんだけど。

チェリョンはとりあえずヘスがいないってことは知っていて、「尚宮は病で会えない。皇子様に染ったら高麗軍に影響が」と取り繕います。そこでジョンはヘスへの伝言をチェリョンに託す。

ここでも、その伝言が何かは描かれません。ただ、17話で韓国版、インター版の両方でその内容はわかります。

 

2つ目のシーンがあるかないかで、ジョンの存在感にまた違いが出てくるんですが、それと同時に、ジョンは皇宮をまた出発しなくてはならないっていう状況説明にもなっています。だからこそ伝言する必要があった。

 

これが韓国版にないのは、このあと起こるソの反乱の経緯もまた、韓国版とインター版で違うから、っていうのがあるからだと思います。ワンソが皇帝になるのはもちろん同じなんだけど、17話をまたいで、2つのバージョンはニュアンスが違う。

端的に言うと、韓国版はソの反乱が割とお膳立てされてます。あとはソが決断するか、皇帝になる覚悟ができたかっていうところに焦点が置かれる。

インター版だと、兄弟間での駆け引きや運の要素もあり、ゲーム性がちょっと残ってます。で、ジョンはこの時どこにいたのか、っていうのが、このチェリョンとのシーンで説明が済まされてる。これが必要だったのではないかね。

この辺の違いは17話のエントリで書ければ。

 

いずれにせよ、ヘスとソは2年の時を経て結ばれ、ふたりともやっと自分を取り戻す。ヨからヘスを守るためにソは怪我をし(そこにはウォンのけしかけがあり。「ソが犬になるなんて信じてはいけません。奴婢はムチ打てば一生懸命働きます」とヨにヘスを弓で狙わせる。二人の仲を確かめるために。ウォンもかなり残酷なんだよ)、皇宮の外で療養。そこにヘスが訪ねる流れ。やはり、皇宮の外というのがポイントです。皇宮はしがらみが多すぎる。

 

そして、そこにジモンが来て「時がきました」と反乱を促します。

ソにとってもヘスにとっても、皇位を獲りに行くっていうのはかなり覚悟がいることなので、この直前に結ばれてるのはうまい。

 

ソはヘスという自分の一部が補完され、完全体で皇位獲得へ。ソがいつも命がけでヘスを守るのは、ヘスが自分自身の一部だと思えるほど大切だからですね。

 

ヘスは「皇位は怖い。皇位を求めなければ幸せになれるはず」っていう人だけど、彼女もまたソと自分を同一化するところまできちゃってるから、「別れるくらいなら、ソが皇帝になることを応援したほうがいい」ってなる。実際、ソを皇帝にする最後の一手を出すのはヘスです。

ソはヘスと恋愛関係にあったからこそ、皇帝になれる。ここでも、恋。

 

腹を決めたふたり。

 

16話は最初大泣きだし、そのあと時間は飛ぶし、最後は急展開なんだけど、ヘスの気持ちについていくのがやはり大変で(私は)。これを書きながら、やっと彼女がソの皇位を後押しするのか今更納得できたw。腑に落ちました。

 

あとは、ソとヘスが肉体的に結ばれたことを、かなり間接的に、でもしつこく色々ダメ押しで表現していてね。なかなか苦心したのだろうな…。影絵はちょっと恥ずかしかった(笑)。

その一環だと思うんですが、ヘスはここで初めてご飯を食べるシーンがあるんですよね。あ、洗濯係の時におにぎりを一人で食べてたか。でもそのくらい。人と食事をしてるところをはっきり描いたシーンは16話までなかった。で、はじめて一緒にごはんを食べる人がワンソっていう。もうそういうので、作り手の「わかるよね?わかるよね?」っていう圧がすごいね。

(あと、1話でソが結構な春画を見るシーンがあって「これは、年頃ですって説明だけのために入れてるわけじゃ…ないよね(苦)?」って思ってたけど、この展開への伏線ってことでいいのかしらね。。)

 

16話で、そこまで苦心して色々性的なモチーフを入れているのはこの後の展開に必要なだけじゃなく、前半に壮絶な死があるっていうのも大きいのかな。すんごいありがちな対比ではあるけれど、死の反対は生であり性ですしね。ウン夫妻の死の前夜にもエロスが漂ってたし。皇位獲得で何か誤れば、ソもヘスも死んでしまうかもしれない。もう色んな意味で、ここでこういう展開にしたのは、納得。

 

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あとペクアのことがいつも後回しになりがちなんだけど(好きなキャラなのに)、2年経ってもウヒとは絶賛恋愛継続中です。ただ、ウヒはヨのスパイをさせられてるからなぁ…。ペクアはペクアで、戦場にいるジョンが心配で、笛吹の間者に送ったって話が出てて(笛吹の間者って何w?)、「この子ウヒがスパイなの知ってるのかしら?なんなら協力してる…?」ってくらいに思ったりしてたんだけど、それは違うようです。ジョンが間者に気づいた、ってことの方が大事っぽい。気づく能力があるっていうことがね。たぶん。

 

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あとウクはね、まぁ相変わらずヘスが好きですよ。ヨにからまれたヘスをさりげなく助けてるし(ジョンも守ってた)。ただ、立場上、ヘスと関わることができないし(ヘスへの好意をヨにさらせない)、ヘスからも距離を置かれてるので、ソというライバルが近くにいないにもかかわらず、2年間生殺し状態です。

ウクはまた、ここからまた転換していく人なんだけど、彼は恋というか、終わった恋をどうするかっていう問題に苦しむんですよね(しかも皇位争いにも絡んでる)。ウクは恋をして人生が変わり、恋が終わって、というか終わったことが認められなくて、更に人生を自ら狂わせていく。物語の中で「恋が終わっても、人生は続く」キツさを背負う人でもあるんですよね。

じゃぁそのキツさをどうするかっていうのが、ウクの最終的なテーマになっていくのですが、そこに行きつくまでにまだ色々ありますね。

 

恋は素晴らしいけど、危険。

 

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初見の感想を再度添える。やはり、見た直後に書く方が圧倒的に楽しいな。でも、ここまできたから、最終回まで『麗』名義もやりたい。19話のウクとか、最終回のソのこととか、書きたいのよねぇ。