お出かけ手帳

誤字脱字病。書いては直す人生。

『麗<レイ>~花萌ゆる8人の皇子たち~』 第18話を見たよ④ きっと私にしかわからない

☆18話以降の展開を含めたネタバレしています

まずはネタバレなしで見たほうが、圧倒的に面白いです

  

チェリョンとヘス

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ハジンがヘスとして生まれ直した瞬間よりも前から、そしてその後も、長きに渡りヘスの友であり妹同然でもあるチェリョン。ワンソと婚姻が叶わず悲しむヘスに、そっと寄り添う。

「お嬢様、大丈夫ですか?心が痛むと、痛いところが余計に痛みます」

ヘスとチェリョンは、願いの石積みの前でウクの亡き妻・へ夫人を恋しがる。そしてチェリョンは亡くなった母に祈る。

「私は元気です。弟たちも元気です。病気は治りました?私が直してあげたかった。だけど…もっと悪くなることはもうないからよかったと、時々そう考えます」

人知れず、チェリョンは時々母と死について考えている。天国の母はもう、つらくないはず。

ヘスも祈る。チェリョンにもヘスにも、祈らずにはいられない事情がある。

 「私は元気です…私は元気です…元気です…」

チェリョンはその気落ちした淋しい声色を聞き、ヘスの手をぎゅっと両手で握る。ヘスは妹の優しさに、励まされる。

ヘスはチェリョンが何をしてきたかを知らない。チェリョンもヘスがハジンだとは知らない。お互いの全てを知っているわけではない。でも、大切に思い合っている。互いの心の真実に触れている。

 

…つづきです!

書き飛ばしていたチェリョンとヘスの大事な場面から始めてみました。「母」「死」というテーマを思い起こさせながら、二人の孤独と信頼関係が伝わるシーンです。

 

そして、またしても前回エントリから間が開いてしまったよ(汗)。ちょびちょび書いてたら、もう6月終わる…ははは…。長いし、とっ散らかってますが、とりあえずアップしますね…。

 

さて。他のエピソードと同様、冒頭から飛ばしまくる第18話ですが、終盤は全てがいったん吹っ飛びます。

もう、おわかりですね。

チェリョンです(泣)。

 

なんといっても彼女はワンム殺しの実質的な実行犯なので、悲しい予感しかなかったけれど…その末路の描き方には完全にえぐられました。チェリョンを想ってどんだけの涙を流したことか。第1話からの伏線と共に、チェリョンの予想外の秘密が明かされ(ウォンと通じていたということ以上に、こっちの方が衝撃度が高い)、今までのチェリョンの発言の振返り&新たな回想シーンも怒涛のたたみかけ。明らかに作り手は、見る者をえぐろうとしてえぐってるんですよね。「チェリョンって実はこうだったんですよ」というのを、渾身の力でやってる。だから、泣ける。

 

一方で、皇后ユ氏は背景がほとんどわからないままです。あれだけ愛を乞うてた人ですから、孤独感は人一番強い人だったはずで、チェリョンみたいなビハインドストーリーを見せられたら、たぶん泣ける感じになるんだよ。でも、それはしないんですね。皇后ユ氏の人生と死には、わからなさが溢れていました。そこがポイントなんでしょうね。

 

チェリョンと皇后ユ氏。身分は全く違いながらも、ともに愛のために罪を重ねた人物でした。彼女たちの死が、ヘスとワンソの関係を激しく揺り動かしていきます。 

 

同腹の兄弟

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皇后ユ氏の死後、ヘスはジョンを宮へ招き入れます。すぐそばにいたにも関わらず、ジョンは母の死に立ち会えませんでした。悲しみに暮れるジョン。

そこにやってきたワンソは、「もう戻れ。母上は俺に任せろ。流刑地を脱した罪は後で問う」とジョンに冷たく言い放ち、立ち去っていく。

兄弟のどちらの様子にも、ヘスは心を痛めます。

 

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このシーンでジョンはセリフが一切ないのですが、演じるジス君の表情と佇まいが素晴らしい。母の死に目に会わせなかったワンソに怒りつつも、それ以上に母を亡くして悲しんでいる。繊細な演技でジョンの心情を伝えています。彼の悲しみが真に迫るからこそ、この後へスがワンソに物申すのにも説得力が出るのですよね。

ワンソは母を激烈に愛しましたが、ジョンもまた母を愛した息子。同じ母を失っているのにも関わらず、兄弟の溝は更に深まります。

 

ジョンは母に溺愛された息子ですが、母の宮での振る舞いに疑問を持ち、距離を置いた時期もありました。母の負の側面にも(全てではないにせよ)気づいていた人です。と同時に、いつだってお母さんの慰め役でもありましたね。子供の頃からよく宮を抜け出していたけど(このあとワンソが25歳だと発言しますが、ならばドラマ初期のジョンは完全なる子供なんだよ。具体的な数字で年齢を考えるのが恐ろしいほどの子供!)、あれは近すぎる母の圧から無意識に抜け出したかったのかもしれない。それでも、ジョンは母を大切にしてきました。

 

やっぱりそれは、ジョンにしかわからない「母の真実」があったということなんですよね。ジョンは皇后ユ氏の善なる部分に一番触れていて(唯一触れた人物と言ってもいいのかもしれない)、少なくとも自分に向けられ優しさは本物だったという確信がある。だからこそ、ここまで真っすぐに悲しむことができるのです。母の罪や評判やダメな部分とは関係なく、自分の感覚を根拠に母へ愛情をささげている。

(わがままな子供時代、反抗期を経て、母想いで仕事もちゃんとする大人になったジョンは、本当に「普通の」息子なのですよね。皇子様だけど健全さを持った「普通」の息子。) 

 

ジョンは成長するにつれ共感を受けるよう、絶妙なバランスで描かれていると思います。主人公であるワンソの幸せをどこまでも阻む存在なのに、悪人だという印象は皆無です。

 

「お前だけは俺の味方になるべきだろう!」 

ジョンが悲しみ沈む静かなカットから一転、物語はワンソとヘスの口論へ。

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「お前だけは俺の味方になるべきだろう!」 

「敵味方は関係なく、陛下のわがままのせいでジョン様は臨終に立ち会えませんでした!」 

「可哀そうなのはあいつではない。いつも捨てられていたのは俺だった!」 

「陛下…」

「亡くなる時になって、この顔にふれたのだ!25年間一度も俺だけのものにならなかった母上を、俺が見送ったことはそんなに悪いのか!?」

ヘスはワンソの頬に触れようと手を伸ばしますが、ワンソはその手をつかみ拒否。

「お前は理解すると言わねば」 

去っていくワンソ。

 

ここぞという時にはいつも、ヘスはワンソに理解を示してきました。それこそ人を殺めた時でさえ味方だった。でも、ここではそれをしない。ワンソを正論で責めるんですね。ジョンが身を呈して抗議するほど母に会いたがっていることを知りながら、ワンソは権力を利用して母の最期を独占。兄弟としてフェアじゃないっていうことなんですよね。

それを受けたワンソは、自分の方が遥かに不公平な目に遭っていたという気持ちがあるから、「最後ぐらい独り占めしたっていいじゃないか」と怒る。あそこまで囲い込まなければ母の心は動かなかった、頬に触れてくれることもなかった、っていうのも事実だしなぁ。それがワンソの救いになっているからなぁ。でも、ワンソやりすぎだよなぁ…。

 

かつてヘスはジョンから「兄弟が争ったら誰の味方に?」と心配され、「私は誰の味方もしない。審判にでもなりますかね」と答えていたんですが(14話)、ここでは本当に審判になってしまっています。「ワンソのわがままだ」と、はっきり言う。

けれどもワンソが欲しいのは完全なる共感です。ジャッジじゃない。正しいとか、間違っているとか、こうあるべきだった、という理屈は聞きたくないのです。

ワンソの抱える悲しみと境遇は大変に特殊なもので、比較的ストレートなジョンと比べるともっともっと複雑です。本人もそれがわかってるからこそ、ヘスだけにはどうしても味方してほかったでしょうね。ヘスは「私の者(ネサラミ)」ですからね。だけどヘスにモノ申されて、ヘス=全て受け入れてくれる人っていうワンソの中の絶対的真理すらも揺らいでしまう。「お前だけは味方になるべき」なのに何故。

 

ヘスはワンソを批判しますが、ワンソへの愛情が減ったわけではありません。頬に手をのばしている。ワンソの悲しみに心を寄せています。

だけども、ワンソはそんなヘスを拒絶する。母が触ってくれた頬をヘスに触らせない。自分を愛してくれているならば、絶対に「理解すると言わねば」。ワンソはあくまでも自分の思い描くヘスでいることを求めます。初めてヘスに「俺のネサラミであれ」と強要する。それほどまでに、ワンソには余裕がない。

 

この時のワンソは、長男を亡くした直後の皇后ユ氏を思い出させもしますね。「私だけを見て。私の悲しみをわかって。私と同じように悲しんで」っていう。どこまでも似た者親子なんですが、「自分の悲しみを大事な人にまるごとわかってほしい」という気持ち自体は誰にでもあるんじゃないかな。でも、大半の人は「それはとても難しいことなのだ」と、大人になりながら気づくわけです。私たちは皆それぞれに、ものを見て感じて考えているのだから。別々の人間なのだから。

 

皇帝になって以降、ワンソは未熟な部分を露呈させていきます。あんなに志を高くもって皇位を得たのに、逆賊を討ち英雄となったのに、権力そのものになったワンソは「わがまま」な人に。ヘスは戸惑います。

いえ、ヘスだけでなく、ここまで物語についてきた視聴者もまた、ワンソの暴走に戸惑うことになるでしょう。ワンソが苦しい人生を送ってきたことも、他者を思いやる純粋な心を持っていることも、高麗をよい国にしようとしてることも知っているのに、ワンソへの共感が難しくなっていく。ワンソというキャラクターはあらゆる意味で、孤独を深めます(そういう描き方だと思うのですよね。「血の君主」になっちゃうの?っていうね。この流れ本当に辛い)。

 

ワンソは「正しい」ことをする

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場面は皇帝の部屋へ。ウォンがワンソに問い詰められます。ごまかそうとするウォンですが、まぁそこはウォンですからね…(むしろ、一度はごまかそうとしたことを評価したい)。

 

「茶美院で兄上に水銀を盛ったのは、ウク。そうだろう?」

「私は知りません」 

「ヘスの侍女だったチェリョンは、お前の家の奴婢だった。その娘を茶美院に入れたのもお前とウクだ。兄上を陥れたのも、ワンギュの乱を企てたのも全部、ウクの考えだろう?もしウクでないと言うのなら、お前の企てとしよう」

「私は違います!そんなことができないのはご存じでしょう?」

あくまでシラを切るウォン。

ここで、そばで見守っていたジモンも加勢します。 

「隠し続けるのなら、銀の重さを騙し商人に売ったことも罪に問いますぞ!釜茹の刑ですぞ!」

兄弟殺し、特にワンム殺しが絡んでるから、普段と違ってジモンも厳しく迫るんですね。商人を騙す皇子。釜茹…。

もはや隠すことはできないと悟ったウォンは、ためらいながらも保身のために白状します。

「私は言われた通り動いただけです。全部…ウク兄上と、先皇がしたことです」 

この言葉を聞き、ワンソは怒り心頭。

「ならば、もうひとつだけ聞こう」

 

ここで問われているのは、ウクの罪です。

ワンソは「ウクがワンム殺しやワンギュの乱の首謀者だった」ということをスラスラ言っていて、真相はもう全て分かっています。ウォンには同意を求めるのみ。ウォン自身の罪で脅してでも、ウクの罪を認めさせている。

「もうひとつだけ聞」いたのはチェリョンのことなわけですが、ワンソはチェリョンの罪も既に把握済みです。だからこそ、ウォンに聞いてるわけだし。

皇位が安定しつつあるワンソにとって、もはやウクとチェリョンを罰することはある種のカードで、あとは「いつ、そのカードを切るか」が問題だったはず。

そして、その時が来た。

 

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チェリョンの正体を知っていたワンソ。ヘスから離れないチェリョンに警戒心を強めていた。

 

ウクは皇子であり、皇后の兄であり、豪族を率いるリーダーでもあるから、そう簡単に罰することはできません。ワンソ自身も、不本意ながらウクの策に寄ったことで皇位を手放さずに済みました。立場がウクを何重にも守ってます。ウクを罰するには、ウォンの証言だけでは足りない。

しかし、チェリョンはどうでしょう。ウクとは違い、身分が低いため守るものが何もない。悲しいことですが簡単に罰することができてしまう。

 

ワンソは皇后ユ氏の死に際して「ヘスが味方をしてくれなかった」という事態に、怒りと不安を覚えますが、スパイであるチェリョンはヘスと依然信頼関係を保っています。チェリョンはヘスを奪うかもしれない、最も危険な存在。

またそれだけでなく、ワンソはヘスの「正しさ」にどこか対抗しているようにも見えます。ヘスは「皇后ユ氏の最期を独り占めしたことは間違いだった」と責めたけれど、ウクやウォンはもちろんのこと、チェリョンはもっと間違ったことをしたじゃないか、本当の罪人じゃないか、と。ヘスとの口論シーンの直後に、詰問シーンを置いたことには意図がある。二つのシーンを繋ぐのは、ワンソの怒りです。

 

そう考えると、やっぱりこのタイミングでのウォンへの詰問は、ウクというよりチェリョン排除が直接的な目的に思えてしまう。チェリョンのほとんどの罪はウクの罪ありきだから、まずウクの件を日和見のウォンに認めさせた。

(ウクを排除するためにも、ヘスの周りでチェリョンにウロチョロされたくないんだよね、ワンソは…泣)

 

そして…。

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茶美院では見せしめの形で、官女が棒叩きの刑に。

何も知らずにやってきたヘスは、立ち合いのジモンから、茶美院の官女が重罪を犯し乱ジャン刑(体中を激しくたたく拷問)を受けていること、そしてその官女はチェリョンだということを知らされます。チェリョンの無惨な姿を見て、気を失うヘス。

 

後にペクアが言いますが、最初ワンソは穏便にチェリョンを宮から出そうとしてたんですよね。それは、チェリョンのためというよりも、ヘスのためです。ヘスを悲しませないため。ワンソはネサラミ以外の人のことは基本的に興味ないもの。でも、結局ヘスが悲しむのをわかってて、重罪をチェリョンに与えた。ということは、ヘスに対しても罰を与えているみたいなもんなのだよ。

 

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麻の布に巻かれ、チェリョンは兵士に棒で殴り殺されてしまう。血だらけのチェリョン。人間の尊厳に対する配慮が全くない死だった。

 

第4話でチェリョンは、罰として吊し上げられた上、ヨンファに細い棒で激しく叩かれました(ムチだと思ってたけど、あれ極細の棒なのよね)。あのエピソードはチェリョンの悲しい未来を暗示させると同時に、チェリョンの立場をはっきりと示していた。宮の中でとても低い身分に属していること。誰に何を頼まれても基本的に断ることができないこと。なにかあれば罪を背負わされ、すぐに厳しい罰が与えられること。ウォンとの関係も仄めかされていましたね(ウォンはさり気なく「あの娘はもう十分叩かれた」と言い、チェリョンはウォンに目配せをしている)。あの吊し上げのシーンって前後も含めて本当に大事なのよね。

 

また6話でチェリョンは、ワン・ゴンとの婚姻を迫られ逃げようとするヘスに、「打ち殺されても、どこに行ったかは言わない」と誓っています。4話での罰を受けての発言でもあるだろうけど、チェリョンには「大切な人の為ならば絶対に秘密を守る」という覚悟があった。チェリョンは打ち殺されますが、最期まで「ウォン」という名前は出していません。

 

チェリョンが死に至るまでの経過は省略され、ヘスが気づいた異変に気付いた時には完全に手遅れの状態になっています。皇后ユ氏以上にあっという間になく亡くなってしまう。このあっけなさが、チェリョンの命がいかに軽く扱われていたか、ということの表れにもなっている。それが、とてもつらい。

 

 悲しみは共有できない

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ショックのあまり倒れてしまったヘス。駆けつけたワンソは太医からヘスが病を抱えていることを知らされます。

「どういうことだ!?なぜ今になって病のことを言う!」

謝るしかない太医(太医のストレスって半端ないよね、っていつも思う…)。

もしワンソがヘスの病を知っていたならば、ヘスが明らかにショックを受けるような罰をチェリョンに与えたでしょうか。否。

 

目を覚ましたヘスは、ワンソを再び強く責めます。ジョンを皇后ユ氏に会わせなかった時より、もっと激しく感情的に。

「離して!よくも…よくもあんなことを!人をなんだと思っているの!犬のように打ち殺させるとは」 

しかしワンソの毅然とした態度は変わらない。

「チェリョンはお前を見張っていた」 

「…え?」

耳を疑うヘス。

「俺たちのことをウォンに知らせて、皇太后の耳に入れた。茶美院からお前のものを取り、他国の間者だと誤解を招かせた。婚姻を邪魔したのはあの娘にも責任がある。兄上に水銀を使ったのもチェリョンだった。初めて皇宮に来た時を覚えているか?茶美院から浴場への道も、あの娘が教えただろう。ウォンがチェリョンに教え、ウンの件も道を知るウォンとウクが事前に皇軍を送った」 

「ウク様が知ってたのは…それは…」 

「お前の傍について俺たちを離れさせ。始末する隙を探っていた。許す理由も必要もなかった」 

「あの娘は…あの娘には、奴婢に生まれた罪しかありません。私の妹でした…」 

「…休め。…少し休んで…全部忘れろ…」 

去っていくワンソ。

呆然とするヘスは、机に見慣れない布が置かれていることに気付きます。

 

ここでヘスの心は何度も揺れ動きますが、ワンソとは気持ちがひと時も重なることがありません。

「人をなんだと思ってるの!?」と正論で怒るヘスに、さらに強烈な正論をワンソは突きつける。「チェリョンは裏切り者であり、重罪を犯したからこそ罰した」と。ワンソは冷静にヘスを諭しながら、チェリョンが犯した罪の数々を伝えます。チェリョンの過去シーンと共に、まるで謎解きのように。ヘスは呆然として聞いてるんだけど、ウクと付き合ってた頃の話まで絡んじゃっていて、もう絶句です。ウクが浴穴を知ったのは自分と密会してたからなのは間違いなく、そのせいでウンたちが逃げられなかったのだとしたら…。

 

一方でワンソは自分の「正しさ」に揺らぎを見せない。チェリョンは生きている限り利用されるだろうし、大罪を犯しているし、「許す理由も必要もなかった」っていう理屈は通っている。皇帝としても、ヘスを守る者としても、すべきことをしたのでしょう。ワンソは「正しい」ことをした。

 

しかし、ヘスはチェリョンの正体を知らされても、「あの娘には、奴婢に生まれた罪しかない」と、チェリョンを擁護します。ヘスはチェリョンの立場が分かっているし、何より「チェリョンが自分に向けた誠実さは本物だった」という確信があるからです。

 

ワンソは悲しむヘスに「全部忘れろ」と、顔傷事件の時のワンゴンのような割り切り感をみせます。ヘスは大事なチェリョンを忘れることなんてできるはずがないのに。ワンソだって母を失って悲しんだ時には、ヘスに完全なる理解を得られずに傷ついたのに。皇后ユ氏が亡くなった時の「悲しむ人」と「審判」という立場が逆転するワンソとヘス。

(厳密にひっくり返ってるわけではないですけれどもね。ワンソは顔傷事件の母と父、両方に近いリアクションを、皇后ユ氏とチェリョンの死に際して順番に見せているのも興味深いですね。)

 

ワンソとヘスは立て続けに唯一無二の存在を失いますが、その悲しみを共有することができませんでした。「私たちは別々の人間なのだ」というどうしようもなさに、二人は交互に打ちのめされます。

 

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即位後(特に婚姻後)、ワンソがヘスのもとを去っていく様子は何度も映し出される。自身の意に反して、ワンソはヘスから遠い人になっていく。

 

もしワンソが皇位を得ていなければ、皇后ユ氏もチェリョンもこのような展開を迎えていなかったでしょうし、ワンソとヘスがすれ違うこともなかったでしょう。二人の関係を亀裂を入れたのは権力とも言えます。やはり、皇位と心は両立しない。

 

 「ウクだった(怒)!」

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皇帝の座に戻ったワンソは、怒りに震えます。その様子を不安気に見るペクア。

「ウクだった!全てあいつの仕業だった!ウクが始まりだった。全て企みだったのだ!!恐れ多く、皇位を餌に俺を弄んだのか!!!」

「陛下、もう少し調べて…」 

「俺に残った者は、お前とヘス…二人しかいないだろう!ウクのせいで、俺が怪物になってしまった!!絶対に許さぬ!!!」 

 

ワンソはウクの蛮行をとっくに知りながら、更にここでウクに対して怒り狂う。

「全て企みだった」というのは、「ウクは俺が怪物になり、ヘスが離れていくところまで企んでいたんじゃないか」っていうふうに聞こえます。皇位を安定させるため、ワンソはウクの要求(ヨンファとの婚姻)に応じざるを得なかった。あの要求をした時点で、ウクにはこの展開まで見えていたんじゃないのか、と。だから「始まり」っていうのは、ワンムやワンギュの乱だけじゃない。「ヘスとうまくいかなくなる」始まり。チェリョンを罰したのはヘスを守る為でもあったが、ヘスの心は取り戻せなかった(取り戻せるわけがない)。完全なる裏目。それも全てはウクのせい。

短絡的な考えに陥るワンソをぺクアは止めようとしますが…。

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 ワンソのもう一人のネサラミであるぺクア。ワンソについた皇子ゆえの負担は、次第に大きくなっていく。だが、この時点ではあくまでワンソの「味方」である。

 

チェリョンからの手紙

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部屋の片隅にあった見慣れぬ布は、チェリョンが血で書いたヘスあての手紙でした。

「ヘスお嬢様へ」という冒頭を読んだヘスは、チェリョンが読み書きをできたことを初めて知り、衝撃を受けます。「字は書けない」「覚える気もない」と言っていたのに。

「どこまでが嘘だったの(泣)?」

 

「お嬢様、私の家族をお願いします。私はもう終わりのようです。全て打ち明けたかったのに、その機会もありません。私は一度抱いた思いを捨てられぬ、ただの愚か者です」 

チェリョンの屈託のない声で手紙が読まれるなか、チェリョンの過去を明かす回想シーン。

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「なんでもしますから助けてください!」

物乞いをしていた幼きチェリョン。偶然、籠で通りかかったウォンに「必死な姿が気に入った」と銀を恵んでもらう。チェリョンの人生が決まった瞬間だった。

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チェリョンに読み書きを教えたのはウォン。ヘスがウクから漢字を教わった時と同じように、チェリョンもまた胸をときめかせていた。

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チェリョン…(泣)。

「お嬢様なら私の心をおわかりになるでしょう?チェリョンは後悔していません。恨んでもいません。何に価値があるかどうかの判断は、自分がするものだから」 

 

第18話での最大の種明かしは、チェリョンが実は字の読み書きができた、ということでした。罪については、もう何度も仄めかされていましたものね。チェリョンは「字が読めない」と度々発言していましたが、嘘だった。スパイだから、読み書きが必要だった。読み書きができることを明かしたのは、ヘスに家族を託すため。自分の話はおまけだし、それもヘスの悲しみを見越して書いたおまけでしょうね。

 

チェリョンのやったこと自体は許されるものではないけれど、罪に加担するか否かの選択権は身分の低い彼女にはありません。ウォンに恋心がなくても命令されたら従うしかない。今まで何人もの官女が、身分の高い者に利用され犠牲になっています。

にもかかわらず恋心のせいで「私の罪は私の選択」となってしまっているのがより一層悲しいわけですが、チェリョンは「生まれついた身分」という自分ではどうすることもできない運命よりも、「何に価値があるかどうかの判断は、自分がする」という意志を大事にしています。このドラマで亡くなる女性はたいてい、「自分の人生に後悔はない。自分は大事なものを守った」と言うのですよね(皇后ユ氏だけはそうじゃないんですけれどもね)。運命よりも意志。何かに価値を見出し、大切にすること。そしてそのためには、代償を払わねばならないこと。チェリョンの遺言には、物語のテーマが強く表れています。

チェリョンは、ヘスもまた「何に価値があるか」を自分の意思で決める人だということがわかっています。だからこそ、「お嬢様なら私の心をおわかりになるでしょう?」。

 

ただ、「あなたなら私の心がわかる」っていう言葉自体が、また感慨深くて。

18話は、キャラクター達が「自分にしかわからない」悲しみと葛藤に苦しむ回。チェリョンはもちろん、ヘスもワンソもジョンもヨンファもペクアも…表立って出てこないキャラでさえも、「この気持ちは私にしかわからないんだよな」っていう状況に追い込まれ、孤独に陥る。

だけど、最期にチェリョンは「ヘスにはわかる」と言うのです。自分の事情全ては伝えられないし、罪が許されるわけでもないと理解したうえで、「わかる」と。

もちろんこれは「何に価値があるか~」にかかってはいますが、「自分の心の核みたいなものは、あの人にならわかってもらえるだろう」っていう信頼は、物凄い救いになる。最期に自分の心を受け渡している。物語はこの後どんどん最期のメッセージの応酬になっていきますが、チェリョンの手紙っていうのは、そういう意味でもテーマを強く打ち出しています。

 

このあとヘスに「私の心がわかる」とはっきり言う人がもう一人いて、それがウクですね(19話)。

 

手紙を読み終えたヘスは、部屋を見渡します。

「何に価値があるかどうかの判断は、自分がするものだから」。

ヘスは「自分が今何をすべきなのか」、その判断をしているように見えます。

 

選択を迫られるヨンファ

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ワンソがふらふら状態になりながら部屋に戻ると、仮面をつけたヘスっぽい女人が待っています。それで、「スよ、もう機嫌が直ったのか?」と駆け寄る。しかし、それはヨンファだった。この「もう機嫌が直ったのか?」という発想自体がヘスの悲しみを理解していないということなんですけれどもね。

一気に機嫌が悪くなったワンソは、「欲張るなと言っただろう」と冷たく言い放ちますが、ヨンファに「仮面ひとつで勘違いなさったくせに」と言われてしまう。 

ヨンファがなぜ仮面をかぶりヘスのフリをしたのか、ということについては18話①のエントリでああだこうだ考察しておりますが、これは「ヘスは特別ではない」っていうことを突きつけていると思うのです。「仮面ひとつで勘違いするほど、ヘスは脆弱な存在なのだ。唯一無二ではないのだ」と。

 

ヨンファは、本音と建て前を同時に言います。

「皇后で満足しろと言ったのなら、約束を守らねば。陛下と私は、この高麗で皇室を間に置いた同業者です。陛下は皇位を守り、私は跡継ぎを育てる。私と陛下の息子を、皇帝にせねばなりません」

しかし、ウクの妹であるヨンファの要求を、ワンソが簡単に飲むはずがない。

「ならばウクと一族を捨てられるか?兄と家を全て捨てて俺の皇后になるというのなら、お前との息子を正胤にしてやろう。お前は皇后と皇太后になれる」

 

ヨンファはワンソの唯一無二の存在を脅かしたことで、自分の唯一無二を脅かされ返す。皇位か心か。心か家族か。それは、かつてウクが迫られた選択と同じものでした。

「何に価値があるかどうかの判断」を、ヨンファもまたするのです。

 

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悪い顔になるワンソ。ワンソからヘスを引き離そうとしたウクも、笑みを浮かべていた。奪う者は笑うのだろうか。

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 兄であるウクに頼ってばかりのヨンファに、本当の「皇位か心か」問題が襲い掛かる。

 

 ヘスは『望む』

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ヘスは茶美院にひとり佇みます。手にはワンソからもらったかんざし。

そこへ、ペクアがやってくる。

「私はどうしたら…?愛する人が…私の妹を殺したのです」

「陛下はチェリョンのことを以前から知っていた。ゆえに、出官させ離そうとしたのだ。お前に頼んで留まろうとしなければ、あそこまでしなかった」

「いくら悪くても、あんなに残忍に罰するなんて…この苦しみから逃れられません。 チェリョンも人を愛しただけなのに…」 

「やめてくれ。そんな顔をしたら俺まで不安になるのに、兄上はどうなる?心配しているぞ、心から」

 ペクアもかなり不安なのですよね…。一応、兄上の肩をもってますけれど…。

「お願いがあります。ジョン様にこれを。私の言葉も必ず伝えてください」 

「どんな言葉を?」

「『望む』」

「伝えたら、もう苦しまぬな?『望む』」

「『ヘスが…切実に…望む』」

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ジョンから「『望む』とさえ言えば、ここから連れ出す」と言われていたヘスは、ついにその合言葉を口にします。

チェリョンの手紙を読み、部屋を見回していたヘス。「自分はここにいるべきではない」と決心させたのは、チェリョンの死と遺言でした。何を大事に思うかは、自分が決める。ヘスが最も大事に思っているものは、命です。

 

ヘスが追い込まれた情況が、とにかく悲劇過ぎる。愛する人が妹を残忍に殺してしまうって…。チェリョンの罪とワンソの罪。二人を愛するヘスは、もう審判になれません。

 

物語の中でヘスは「誰もが人として扱われるべきだ」と何度も訴えてきたから、チェリョンが「罪人とはいえ、人として扱われなかったこと」への悲しみも相当なのですよね。4話では実際に自分も罰を受け、「叩かれたことより、あのような扱いを受けたことがつらい」とウクに言っています。「誰の娘か、息子かが大事なのですか?獣みたいに縛りつけて叩いて…高麗はそういうところなのですか?」とも。それもまた、チェリョンの最期にまつわる伏線でもあったのだよなぁ。

 

チェリョンの伏線ってたくさんありすぎて、ここで拾いきれないほどなんですが(やろうとしたけど、分量的にもっとおかしくなりそうなので断念…。18話では、かなり映像で説明されているので観てね逃)、特に1話とか4話っていう初期も初期に大量に散りばめていたのが本当にショックで…(泣)。 浴穴っていう場所自体が伏線とか、すごすぎる。

 

と言いつつも少しだけかい摘むと、1話でチェリョンが新生ヘスに「本当に記憶がないのですか?嘘でしょう?」とこっそり聞くシーン。あの時チェリョンは「他の皇子様と密会でも?それとも金を借りたのですか?」って言っています。今思えばこれ、自分のことなんだよなぁ(泣)。チェリョンはウクの家に仕えていましたが、この時点でウォンのスパイとしても動いていた。ウクは有力な皇帝候補だったから、ワンヨに取り入るためにウォンにはウクの情報が必要だったのでしょう。そして浴穴がその報告場所だった。何かしらの援助を受けてたんでしょうね。チェリョンはお金の為に罪に加担してるわけではないので、お金で解決したがるウォンに「借りる」というという形で関係をおさめてたんじゃないかね。弟たちのためにも、お金は必要だったでしょうし。想像ですけれどもね。(インター版では、ワンムを水銀中毒にしていたチェリョンにウォンはお金を渡そうとしています。だけど、チェリョンは「もらえません」と。韓国版ではお金は出てこず、水銀の受け渡し確認的な会話を二人はしてた気がする)

チェリョンはウクを「うちの皇子様(ウク)が一番」とヘスに紹介もしていて、「あれ、どういう気持ちで言ってたのかな」とか思うとまた泣けます。結構本心だったと思うんですけどね。出だしのウクって本当に貴い皇子様でしたから。「ウォンと全然違う!!」って思ったはずなんだよ。

でも、チェリョンにとってはウォンこそが唯一無二の皇子様だった。ウォンのゲスさはわかっていても、自分を見つけてくれた人だから唯一無二であり続けたのだよね…。誰にも気に留められない中、ウォンが物乞いをしていたチェリョンに気づいたこと、施しを与えたことで、チェリョンは一生分の「私のことをわかってくれた」という気持ちをもらってしまったのかな。ウォンにとっては気まぐれな善意なのだけれどね。でもウォンにもウォンなりの思いがあって、その瞬間に沸き上がった善意なのだよね。はぁ。

こういう気持ちなり、いきさつを全て自分の胸にしまって生きてたのかと思うと、切なすぎるよ。

 

これに関連して(?)、2、3日前に朝ドラ『ひよっこ』を見てたら、主人公のみね子(有村架純)が、早苗さん(シシドカフカ)っていう同じアパートの人にこんな言葉で評されていました。

「この子みたいに一見、なんの秘密もありません、馬鹿正直です、なんでも話しちゃいます、みたいな顔してさ、そんな顔してるくせに秘密を持ってるっていうのは罪が重いのよ!」(『ひよっこ』/74話)

 

設定とか全然ちがうけど、「これってチェリョンじゃん」って思いました。本当に罪深いよ。もう号泣だよ。でもね、やっぱりチェリョンの秘密はチェリョンだけの罪じゃない。だって、「この子は何の秘密もない、正直で、屈託なく生きてる子なんだ」と決めつけるのは周りにいる人間だから。周りにいる人に「決めつけた罪」を背負わせるから、「罪深い」のです。あぁ本当に気づいてあげられなくてごめんよ、チェリョン。「文字の読み書きが実はできた」という設定も、チェリョンに対する決めつけがあるからこそ衝撃なのです。「誰かのことをわかる」と簡単に思うことは、おごりなのです。

 

一方で「きっと私にしかわからない」想いや状況を持つことは、心の自由が守られるということでもある。犯罪はだめですよ。でもチェリョンが好きな人を好きだと思うことは、誰にも犯せないのだよね。人間、何を好きになっても、誰を好きになってもいい。

秘密だって、持ってもいい。意に反して自分を知られて生きていくのは、それはそれで地獄です。秘密が人の心を守っている。誰もが何かを隠して生きているのだよね…。

 

そういうことを考えていくと、18話で辿り着くのは人間の心の領分みたいなものなのかな。自分の領分。他人の領分。心の領分と罪とのせめぎ合いを描いていたのかもしれません。

 

時間を掛けすぎましたね、18話。皇后ユ氏の時はひたすら難しくて書けなかったんだけど、今回は「日々の仕事がつらい」という全く違うファクターが追加され(笑)、余計に時間がかかってしまいました。あぁ人生のままならなさよ。とりとめなく、超長々と書いてしまったけど、もう終わります。もしここまで読んでくれた人がいたなら、本当にありがとうございます(泣)!

 

19話、20話はここまでじっくりあらすじは書かずに、自由にやると思います(18話エントリの自分的裏テーマは「あらすじをしっかり追う」でした。そして、あらすじを追うのは滅茶苦茶難しかった)。あと、宣言しては自分で破ってきたけど、ってかまた破るかもだけど(汗)、残りの2話については1エントリずつにしたい…無理かな…。特に19話。

 19話は私にとってウク回であり、どの皇子も好きだけどウクはとりわけ好きすぎるので(ハヌルファンなので許してくれ)、むしろ何も書けない可能性もあります(笑)。あと7月はハヌルさんの映画が2本も立て続けに公開されるので、ちょっとそっちに気が行くかもしれない(これがまた、二つともハードな内容なのだよね)。

 

でも、どんなに時間がかかっても、形はどうであれ最後までやるつもりです。まぁ『月の恋人』タイトルでは一応最終回までやっているので、必要ないっちゃ必要ないのですけども。やりたいから…やる(笑)。

 

 

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