お出かけ手帳

誤字脱字病。書いては直す人生。

『麗<レイ>~花萌ゆる8人の皇子たち~』 第19話を見たよ② 悲しいけれどウヒが悪い

☆最終話までの展開を含めたネタバレしています

まずはネタバレなしで見たほうが、圧倒的に面白いです

 

うわーーーー汗!! 

前回からの更新からも、『麗~』初めての地上波放送(@テレビ東京)が終わってからも、ずいぶん時間が経ってしまった焦。しかも超中途半端なところで途切れた状態で間が空いてしまい申し訳ない限りだ…。このペースで最終回に辿り着くのかな(がんばろう)。

  

では早速、19話のつづきです。ウヒを中心に。

月の恋人a.k.a.麗~について書き始めて以来、今回最も悩みました(←最近これ毎回言ってる気がする笑)。彼女を取り巻く状況はあまりにがんじがらめ過ぎるっていうのもあるんだけど、なによりあの最期がね。オ尚宮もヘスとワンゴンを守るために自分の命を差し出しましたけれど、今回はより政治的意味合いが強い。だって国難を一人の人間の命で収めてしまったんですよ!もうこれね、マイケル・サンデル先生とかがやる領域ですよ。ジャスティスはどこに…。

ラブストーリーとしてはクラシックな悲劇ともいえるウヒとペクアですが(因縁の家柄のせいで結ばれず、死で帰結)、それでも「ベタだ」と片付けられないのは、ウヒの葛藤を切実に描いているからだと思います。

 

(今更ですが、ペクアはペガとして浸透しているかと思いますが、ペクアで始めてしまったのでとりあえずこのままペクアでいきます。ヨンファはヨナだし、茶美院は茶美園なんですよね…いつか直せるかな…)

 

そして、読んでくださっている方ありがとうございます。長文なので笑、先にお礼を申し上げます。

毎度そうですが、これが正しいということもなく、偏りあるあらすじ&感想ということでよろしく?お願いします笑。

 

<目次>

 ※ためしに目次作ってみました。

 

追い詰められるウヒと後百済の民

 

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ペクア:「なぜためらうのだ?すでに養女になり、母も会う日を待ちわびている。先日のことか?百済出身の奴婢は解放するように言った。もう二度と起きぬ」

 

高麗豪族の養女となり、いつでもペクアと婚姻できるはずのウヒ。しかし、彼女は決断することができません。「後百済の王女」という素性を隠しているから、決断できない理由をペクアに言うこともできない。

そんな中、奴婢となった後百済の民が逃亡の後に処刑された挙句、無残な姿で見せしめにされているところを、ウヒは目の当たりにしてしまいます。彼女は本当に婚姻できるのか…(この時点で全くできる気がしない)。

 

この殺された民っていうのが、一人や二人じゃなくて、たぶん家族ですよね。子供もいる。で、みんな首から赤い字で「逃奴婢」と書かれた板を掛けられていて、それを見た高麗人と思われる民たちは「後百済人は税を払えばいいのに…税を払って奴婢を解放すれはいいのに…」みたいなことを言ってるんだけど、いやそのお金がないんだよっていう。

この高麗一般人の反応に悪意みたいなものはなく、奴婢に対して気の毒には思ってる感じはあるんですよね。でも、どこか他人事です。この市井の他人事ムードっていうのも罪深いんだよな…。(と言いつつ私もすぐ他人事になっちゃうから、自戒の念を込めている)。

 

ウヒにとって、後百済の民の苦境は全く他人事ではありません。ウヒは後百済皇族の生き残りとして民に対する責を強く感じていて、また自身も「後百済の娘」であるがゆえに苦境に立たされています。見せしめとなってしまった民の周りには人だかりできているけど、顔をゆがめ痛みを感じているのはウヒだけ。民への後ろめたさもあるから、その痛みは相当なものでしょう。ペクアもウヒの悲しみにはついていけない。民が苦しんでいるのをこれだけわかっていながら、自分だけ後百済人であることを捨てペクアと婚姻するなんて、ウヒにはどう考えても間違っているのです。

でも、高麗豪族の養子にまでなってしまった。ウヒは前に進むことも後戻りすることもできません。ウヒも、奴婢となってしまった民も、追い詰められるところまで追い詰められています。

 

あとはそうですね、去年書いた『月の恋人』タイトルの13話エントリーに「このドラマの英題である『 Moon Lovers – Scarlet Heart: Ryeo』のScarlet(赤/緋色の意)はアメリカ小説の『緋文字』からきてるのでは??」って超こじつけ的に書いたのですが、本当にその小説と同じように赤い文字が見せしめとして出てきたので驚きでした。依然、作品のつながり根拠はありませんが…(爆)。でも偏見とレッテルの象徴として赤い文字が両方とも使われてるっていうのは興味深いですね。偏見はワンソが抱えるテーマのひとつですしね。

 

ワンソは選べないし、選ばない

 

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そういう高麗社会での流れがあるなかで、追い詰められた後百済の民たちはついに反乱を起こします。豪族の家に火をつけ、死者がかなり出る。高麗が守るべきは、民か豪族か。

豪族代表のウクは、ここぞとばかりにワンソをプッシュします。

 

ウク「豪族は京軍の投入を望んでいます」 

ワンソ「京軍が出れば必ず死傷者が出る。奴婢にとどまらず良人まで加われば、全国的な騒動になる」 

ウク「豪族からお守りください(怒)!!命の危機が迫っても京軍が出ぬ故、私兵を雇い始めています」 

ウクの連れ「さようです陛下。国の基盤である豪族からお救いください」

ワンソ「ならば、刃のない槍と木刀を武器にしてはどうだ?即位して間もないゆえ、流血は避けたい」

ウク「第13皇子ペクアを先鋒長にさせてください」

ジモン「ペクア皇子様は武芸とは程遠い方…なのに何故?」

ウク「陛下が高麗人よりもペクアをはじめ新羅系や百済系を大事にするとの噂があります。しかもペクアは百済系の官女を高麗豪族の養女にして婚姻を」

ワンソ「それは俺が許した」 

ウク「皇帝の側近が百済系に操られている、というふうにも取れるのです」 

ワンソ「憶測にすぎぬ」

ウク「憶測は一瞬で事実になるでしょう。それを噂、もしくは口伝とも言います」

 

ここってものすごいスピードで会話していくシーンなので、ついていくのが大変だよ汗。

 

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攻撃的なウク。怒っている。

 

ウクの要求は大まかに二つあって、まず「国の軍を出し、豪族を守れ」ということ。民より国の基盤である豪族を守るべきだし、その豪族が私兵を出そうとしているのに、国が軍を送らないのはありえない、と。ワンソは民の心配をして渋るけど、豪族の私兵ってオフィシャルな兵士より凶暴そう…。

そして二つ目の要求が「ペクアに兵の指揮をとらせろ」。皇帝の側近であり新羅系のペクアが百済系の官女と婚姻するとなると、ワンソは最大勢力である高麗系豪族との信頼関係は結べない一方。後百済の民が暴動を起こし国が兵を挙げる…ならばペクアがその指揮を執り豪族たちの不信感を払拭すべきっていう。

 

ヨンファとの婚姻を迫った時もそうだったけど、ウクのワンソへの政治的要求って「一見なんだか」筋は通ってるんだよなぁ。それでいて、真の目的は「ペクア排除」だからな。ウクには、その時々の状況を利用しながら物事を思うように動かす力がある。政治力。

対してワンソは、ウクと対峙してもどこか後手ばかり出してる感が否めません。ハッキリ言ってウクに負けてます。それはやっぱり皇帝としての力が弱いからなんですよね。ウクは賢い上に豪族パワーを得てるからこそ怖いものなし(と本人は思ってる)。 

 

とはいえ、ウクの言ってることは明らかに問題があって、この人は弱い立場にある民を完全に無視してるんですよね。奴婢となった後百済の民はただ暴れてるわけじゃない。あまりにひどい扱いを受けているからこそ、「もう、やられっぱなしはごめんだ!」ってなっているわけで。そこを解決しないと、どうにもならないんだよ…。

 

ウクはこの時、いつになく攻撃的な態度でね。皇帝を相手にしているとは思えない語気の鋭さです。序盤のソフトだけれども自己主張もあまりないっていう姿を考えると、相当変わってしまいました。

ただ、優しかった頃のウクが最高だったかっていうと、それは違うとも思うのです。ウクは多くを諦めていたからこそ他者に優しくできていたし、まわりの人に「良い皇子」だと思われていた。いや、優しかったのは「皇子は優しくあるべきだ」って思っていたのが大きいのかもしれないね。優しさは義務でもあった(義務が全てだとも思わないけど)。

いまウクは完全に「悪い皇子」になっちゃってはいますが、少なくとも自分の欲望には正直です。感情的だし、諦めてない。このシーンのウクには怒りが溢れていて、つまるところ今までのままならない人生に怒ってるようにも見えるのですよね。そのうっぷんをワンソにぶつけている。たまりにたまったフラストレーションのせいで攻撃自体が目的になっています(このウクの心理は豪族の家に火をつける民に近いんじゃないか…っていうのは立場の違いを考えるとかなりかなり言い過ぎだけど、そう遠くもないと思う)。しかも、怒りは直接憎んでいない対象までも攻撃させます。ペクア排除はウォンのそそのかしがあって言ってるわけで、ウクはペクアが憎いわけじゃない。でも、ここまでできてしまう。

 

どちらのウクが問題かと言えばそりゃ圧倒的に「悪い皇子」のウクなんだけど、「良い皇子」の時も「悪い皇子」になっても結局彼は幸せじゃないんだよなぁ。何が幸せ?とか考えるとまた難しくなっちゃうからやめますけど笑、とにかくハッピーじゃない。じゃあウクがハッピーだったのは?って考えるとヘスと一緒にいた時です。しかも、付き合うとか婚姻とか考える前の無自覚に恋をしていた頃が一番ハッピーじゃないのかしらね。嫉妬も不安もなく、ただヘスがそばにいると心が軽くなり、世界が違って見えた瞬間。そう、瞬間の出来事なのだよ。あぁ、恋。

(このへんのテーマはウヒに通ずるところがありますね。)

 

ウクは「憶測は一瞬で事実になる」という言葉が自分に返ってくるかのどとく失脚させられるわけですが(状況証拠から罪を着せられるので、まさに憶測が一瞬で事実になる)、その失脚シーンとそのあとでもう一度ずつワンソと対峙します。ワンソとの力関係はどんどん変わっていく。最後の対峙ともなると、ウクに勇ましさは残っていません。だけど、弱くはない。弱々しいけど、もしかしたら最も強いウクかもしれない。人間の強さ弱さの複雑さを見るためにも、19話におけるワンソとウクの対峙シーンはどれも大事だなって思います。

 

…と、ちょっと話がそれていってるので戻りますが(ウク推しなので許しておくれ)、ここでもうひとつ重要なのが、ウクがワンソに言ってることの先にあるのは「あなた、皇位失ってもいいの?」っていうことです。結局皇位なんですよ、ここでの話。 ワンソが強く出れないのも皇帝としての地位が安定してないからだし、「兵を出すと死者が…」と言いつつも「即位して間もないゆえ、流血は避けたい」ってワンソ自身も皇位を気にしてる。

 

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不安定な立場から、強く出れないワンソ。

 

その後ワンソ、ペクア、ジモンで内輪会議となりますが、やはり皇位の話になっていく。

 

ワンソ「ならぬ!コムンゴ(楽器)を弾いた手で剣は持てぬ!」 

ペクア「ウヒが百済系だと疑われるのは嫌です。我々のせいで陛下を困らせるのならなおさらです」

ワンソ「いっそのこと、俺が出よう」

ジモン「豪族の警戒を解くため政から一歩退いているところです。豪族を保護しても、奴婢を味方しても問題です」 

ペクア「私は死にに行くのではありません。このままでは豪族に振り回されて、皇位が危険に。私は大丈夫です」

 

ワンソは皇帝としての地位を固める道半ばで、豪族の見方も民の味方もできません。皇帝だから、どちらも選べない。

(豪族の警戒を解く策としての鷹であり読書でもあったわけですね。ウクは思いっきり反応しちゃったけど…)

もしワンソが皇帝でなければ、民の力にすぐなれたでしょう。皇帝となった今、豪族との関係で主導権を握れない限りワンソは政を動かせません。あのワンソが今、無力なんだよ。それで、どう考えても危険なのにペクアの善意に甘えてしまう(ペクアが戦場に行って大丈夫なわけない)。心苦しくもワンソが優先させたのは皇位の安定であり、この振る舞いが多くの因果を招いています。

 

永遠の伴侶

 

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ペクア「戻ったら婚姻しよう。お前は永遠に私の伴侶だ」

ウヒ「(今だけは百済の娘でいたくない…完全にあなたの伴侶よ)」

 

出兵前夜、ペクアとウヒは茶美院で二人だけの時間を過ごします。そして婚姻の約束を交わす。

このシーンは、とてもロマンチックな描かれ方をしていますね。エロスも間接的に描かれる(キスよりも、ウヒの髪をペクアが結んでいる方が艶っぽい。これ1回ほどいた髪を結び直してるってことなのよね。ふふ)。

 

「後悔しないか?俺は強がってる。どうなるかわからない」と弱音(であり本音)を漏らすペクアに、ウヒは「もう夫人もいるのだから、必ず生きねば。未亡人はいや」と甘えるように言います。ペクアに対して「死なないで」というメッセージであると同時に、彼女の決意ですね。ウヒは未亡人になりたくないし(既に家族を失ってるから余計に残される立場は嫌なはず)、未亡人にならなくて済む術を知っている。それは「百済の娘」だからできるんだけど、心では「(今だけは百済の娘ではいたくない)」と願ってしまいます。どこまでも引き裂かれるウヒ。

 

 二人の関係はいつも現実から離れたところにあって、それは最後の逢瀬まで続きます。表面上は穏やかな雰囲気ですが、この時ウヒもペクアも自らの死を覚悟していて、婚姻が実際には難しいことはわかっている。でも、約束をするんですね。なぜなら、守れない約束ではないから。「永遠の伴侶」になるということは、死がふたりを分けてもなお伴侶でいつづけるということ。彼らは終わりのない約束をすることで、互いに別れを告げています。現実から離れながら、最も辛い現実と向き合っているともいえるのです。

 

ウヒの選択

 

民の怒りは止まらず、ペクアの出兵が迫ります(このタイミングで、ペクアはジョンにヘスからの『望む』という言葉を伝えますが、ここでは割愛)。

 

そこにきて、突如ワンソのお触書が登場。「もう後百済の民への差別はさせない」という、民の苦境を救う内容でした。かなり具体的に書いてある。…でも当の民は信じないんですよね。今まで散々同じようなことを言われ、裏切られ続けられてきたから信じることができない。お触書はむしろ民の怒りをさらに増幅させてしまいます。ワンソは豪族だけでなく、民とも全く信頼関係が結べていないのだよ。この民の反応はワンソが「豪族か民か」という選択を避けたことからくる因果のひとつだと思いますね。

とにかく、暴動は止まりません。民は宮に乗り込んでいく。

 一方、ウヒは白装束姿で皇宮内の高い建物(城壁?門?)の上に立っています。「三韓一統」と書いた垂れ幕を下げて。

出兵直前のペクアはウヒの姿に気づき建物を駆け上がり、宮になだれ込んできた民もその事態に騒然。「ウヒ公主(王女)様だ!!」

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ペクア「 ウヒ!!」

ウヒ「来ないで…」 

ペクア「…違うよな?…やめてくれ…」 

ウヒ「背を向けて…背を向けて!」

語気が強まるウヒに従い、ゆっくりと背を向けてしまうペクア。

ウヒ「…見たら…忘れられなくなるじゃない…」

その言葉にハッとしてペクアは体を向き直しますが、ウヒはペクアを見つめたまま倒れるように身を投げてしまいます。

 

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ウヒの言葉に従い、背を向けてしまうペクア。このあとウヒのほうに向き直しますが…。

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「見たら…忘れられなくなるじゃない…」

 

「来ないで」「後ろを向いて」というウヒの言葉をある意味尊重してしまい、ペクアはウヒの投身を止めることができませんでした。これってペクアという人を物凄くよく表していて、つまり彼はよくも悪くもウヒの心に踏み込まない。しかも、ペクアはウヒに「違うよな…?」って言っていて、つまりは目の前で起きていることさえ、どこか見ようとしてないのだよ。

一方のウヒは、最後までペクアに現実を見せたがらなかったわけですが、それはペクアのためといえたのか…。

 

ウヒのナレーション。

「(知らぬ顔をして生きられると思った。両親すら否定しようとしたのだ。だが、私を母と慕う民は無視できぬ。それは死ぬことよりもつらい。高麗と百済キョン・フォンとワン・ゴン。全ての罪を私の命で償う。私が生まれた理由はこういうことかもしれぬ。ペクア、あなたを愛してる。あなたは私の唯一の伴侶よ)」

 息絶えたウヒを抱き、ペクアは悲しみのあまり絶叫します。

 

ウヒは自分の幸せのために両親と後百済の存在を否定しようとしましたが(高麗豪族の養子になった)、民は母であるウヒを否定するどころか未だに慕っています。その民は暴徒と化し、あるいは逃奴婢に。後百済に生まれたことがまわりまわって差別にとどまらず罰せられる立場になってしまっている。彼らも被害者だったのに。罪って悲しい形で連鎖してしまう。その連鎖のはじまりこそがキョン・フォンと・ワンゴンでした。キョン・フォン(ウヒの祖父)は後百済を開きながら、その後ワン・ゴンに頼んで国を潰させたんですよね(Wikipediaで見ただけだけど、かなり血みどろ)。はじまりにもはじまりがあるのだろうけれど、振り回されるのはいつだって民。体制側が血を流さなければ、もはや民は納得しない…。

 

民とペクアの間で揺れていたウヒでしたが、皮肉にも両者が緊急事態に陥ることで進むべき道をみつけます。死をもって訴えれば民の怒りは鎮まり(鎮めざるをえない)、民の怒りが鎮まればペクアが死ぬこともない。王女としての責を負いながら、ペクアも助けることができるのです。ウヒにとってそれは、理屈として最も説得力があったのかもしれない。危機のなかで、ウヒはあっという間に実行まで移してしまいます。

 

自ら死を選んでいること。自分の幸せを優先させるのは死よりも辛いと感じていること。自死に意味を与えてしまっていること。他者の罪を死で償おうとしているということ。あまりに自己完結していること。危機的状況をおさめる方法として死が機能してしまっていること。残されたウヒを愛する者が皆、深く悲しみ傷ついていること。

 

ウヒの選択は良心からくる緊急措置であるにもかかわらず、「良い」とは言えない多くの問題を残しています。

 

なぜ「ウヒが悪い」のか

 

ペクアとヘスは、ウヒを失った悲しみに打ちひしがれます。

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ヘス「忘れないために、身を滅ぼさないように」

ペクア「なぜ言わなかったのだろう…私がそのようにさせたのだな。振り返ると全て私の欲だった。亡国の民、妓女出身、孤児。背景を気にせず思慕した私に感心した。自分に酔いしれて、ウヒの本心を見ようとしなかった。なぜ悲しいのか、何に苦しんでいるのか、なぜ笑顔が続かぬか聞かなかった。見せかけの愛だった」

 

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「私がそのようにさせたのだな…」

 

ペクアは皇子の中でもひと際優しさを持っていますが、その皇子様が愛する人を失くして気づいたのは、自らのエゴでした。

ペクアがウヒの心に踏み込まなかったのは、自身も出自のことで苦労してきたし、そういうものから自由になりたいと願っていたからです。「過去や生まれについては語りたくない」というウヒの気持ちを察してもいたでしょう。辛いことには触れないほうが良いと思っていたのです(それはそれで、間違っていないのだよ)。だけど、もうそんな風には思えない。独りよがりだった。自分が悪かった。

 

ペクアが聞いたところで打ち明けてくれていたかはわかりません。あれこれ聞いていたらら、二人の関係はもっと早くに終わっていた可能性もある。…それでも、ペクアはウヒの心に踏み込むべきだったのかもしれない。何も取り返せなくなった今、残された者の後悔に終わりはありません。

 

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「ウヒが悪いのです…」

 

深く沈むペクアにヘスは語り掛けます。

「ウヒが悪いのです…。私たちは心を全て捧げたのに…結局…利己的になれなかったウヒが悪いのです」

 

これって字面だけだとウヒを責めている印象を与えかねませんが、そうではありません。心から悲しんでいます。ヘスは泣いてます。ここでヘスはペクアを慰め、ウヒを哀悼し、自死を否定するっていう3つを一気にしてる。それが「ウヒが悪い」になるんですね。よくこの短さで表したなぁ。

 

ウヒが本当のことを言わなかったのは、ウヒとペクアどっちのせいでもある。にもかかわらず、ヘスがここまでハッキリ言うのは、ペクアのためだと思います。彼女は「忘れないために、身を滅ぼさないように」と開口一番言っていて、最後の出官シーンでも同じような言葉をかけている。ペクアは自分を責め続けている状態で、少しでも「ペクアが悪かった」と匂わすのは危険なのです。後追いすら起きてしまう可能性もある。大切な人を自殺で失うキツさは想像もできないほどで、これ以上ペクアに傷ついてほしくないというヘスの気持ちが表れているんじゃないかな…。

 

ヘスはまず「ウヒの死はペクアのせいではない」という意味で「ウヒが悪い」と言います。「私たちは心を捧げた」とはつまり「私たちはウヒの味方だった」ということ。「どんなウヒでも受け入れていただろう」っていうことを含んでいると思うのですよね。ウヒが真実を語らなかったのは、ペクアの態度のせいではない。私たちはできることはしたのだ、と。何も言ってもらえなかった寂しさと無力感は変わらないままに、ヘスはペクアを慰めます。

 

考えてみるとペクアは「加害者の子ども」でもあるわけで、実はウヒと近い部分もある。彼はウヒの家族がワン・ゴンに殺されたと知るとすぐさま「手首の傷もそのせいか?私の父のせいか?すまない代わりに謝るすまない。あの人の息子ですまない」と言っていて(13話)、罪と責任についての考え方も似ていました。事情を知れば、ウヒがスパイとして自分からの情報をワンヨを密告していたことも、許していたんじゃないですかね。同郷の左丞を殺めたことも、受け入れていたでしょう。「正体をばらす。そうなればペクアも危ないぞ」と脅されてのことですから(でもウヒは自己弁護とかしそうにないよなぁ)。

一方、ヘスは固定観念にとらわれずに問題の根本を見抜く力があります。チェリョンの罪を知ってもなお、味方でいつづけている。ウヒに対してもきっと同じだったよ。

この二人には政治的な力はありませんが、ウヒは少なくとも一人で問題を背負うことはなかった。頼ってよかったのです。

 

ただ、これどんどん堂々巡りになってしまいますけど、ウヒはペクアやヘスの優しさや聡さを知っているからこそ、二人を大事に思っているからこそ、言えなかったというのもあるのですよね。

かつて、ワン・ゴン暗殺を直前に控えたウヒは「知らないほうが、何かあっても迷惑がかからない 」(12話)と言って、ヘスに自分の素生を教えなかったし。

自分が助けを求めれば、ペクアもヘスも力になってくれるだろう。でも大事な人に迷惑はかけられない。最期にウヒがペクアに「忘れられなくなるから見ないで」と言うのも、自分のせいで苦しんでほしくないからです。

 

そして、ヘスはさらに「結局…利己的になれなかったウヒが悪い」と続け、涙する。

この二人はウヒの真面目な性格を知っているから、こういう選択をしてしまったウヒの心境はわかっているはずです。ウヒが後百済の王女だと知った時点で、色々パズルのようにつながったはず。ウヒの最後のナレーションだって、手紙とかではないですよねたぶん。でも、その気持ちは伝わっています。

だからこそ涙する。ウヒの死を悼みます。それでも利己的になってほしかった。自分のために生きてほしかった。利己的になれなかった結果が自死だなんて。それはいけないことなのに。「利己的になれなかったウヒが悪い」。

 

自死という大きな選択をする前に小さな利己的な選択をしていれば、ペクアやヘスに頼る自分を許せていたならば、ウヒには違う未来があった「かも」しれない。

個人的にはやっぱりここを強調したいな。

ウヒの顛末はあまりに悲しすぎますが、もしそこから学ぶことがあるなら、それは「苦しいジレンマに陥った時、どのように選択をすべきか」という普遍的な問題に対する心の在り方だと思います。

「あまりに状況が入り組んでいて、私にしかわからない」

「私以外にやる人はいない」

「私もやってはいけないことをしてしまっている」

「本当のことを言ったら、みんなに迷惑がかかる」

ウヒはこういう思いにとらわれますが、私たちの日常にもそれは溢れている。真面目で優しい人ほど、強く感じる傾向にあるでしょう。で、その行き着く先は死なのです。精神的な死や肉体的な死。いきなり死っていうと大げさかもしれないけれど、我慢ばかりで生きるのが苦しくてつまらなくて嫌な人間になてってしまうかもしれない。病気になってしまうかもしれない。罪を犯してしまうかもしれない。そのどれもが不幸です。

だから、もしジレンマを抱えて苦しい思いをしているのなら、自分勝手になっていい。ほんの少しでも自分勝手になるべきなのです。信頼できる人がいるなのら、その胸の内を打ち明けていい。それは本人が思う程、迷惑なんかじゃありません。いえ、迷惑をかけたっていいじゃないか。

 

ヘスの慰めに対してペクアは何も言いません。彼には「ウヒが悪い」とは言えない。

その代わりに、こうつぶやきます。

「 陛下は知っていた。そうだな?」

 

ワンソ、ネサラミを失う

 

ペクアはワンソのもとを去ります。

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ペクア「ウヒが陛下の教旨を掲げたのは、取引をしたからですか?」

ワンソ「死ぬとは思わなかった。教示を書けばお前を救える、と言った。後百済の王女だとその時知った。お前を助けたかった。藁をもつかむ気持ちで書いた。死ぬとわかっていても同じだっただろう。俺にはお前のほうが大事だから」

ペクア「わかっております。わかっていても…受け入れられません。陛下のそばにいるのがつらいです」

 

ペクアは最敬礼をして、これが本当の別れなのだいう強い意志をワンソに伝えます。「俺が悪かった」と焦るワンソ。

「私こそおそばに仕えるには小さい者で申しわけありません。どうか長生きを、兄上」

ペクアは振り返らずに去っていく。

 

このペクアは、大将軍が去った時とどこか似ていますね。「側にいるのがつらい」と。

ワンソはスンドクの死にもウヒの死にも直接は手を下していないけれど、その前段階で彼が違う選択をしていたら結果は違っていたかもしれない。ワンソは彼女たちの死にどうしようもなく関わっています。

 

加えて、ワンソにはいざとなれば大事な人のためには残酷なことでもやりきってしまう意志がある。それは本人に頼まれたとはいえ弟を斬ったことであり、大事な人を生かすためならそうでない人を見殺しにするであろうということ。普通の人ならば怖気づくことも迷わない。それほどまでの強い意志は皇帝には絶対的に必要な資質ですが、側にいるのは辛いし、恐ろしい。

 

ワンソは裏目に出た感があって気の毒と言えば、気の毒ですが、この一連の悲劇の責が誰にあるかと考えると、ワンソだと個人的には思いますね。ウクも相当悪いし(この件に関して全面的にこの人は悪い)、ウクをけしかけたウォンが発端だったりもする。だけど、ワンソは皇帝なのです。国難をおさめるのは、本来皇帝であるワンソの役目。皇位が安定していなかったとはいえ、彼はそれをしなかった。できなかった。ペクアに甘え、最終的に危機を収束させたのはウヒでした。意志が強いはずのワンソは一時的に、無力である自分をどこか許してしまった。

ウヒに関しても、「死ぬとは思わなかった。知っていても同じ。お前のほうが大事」なんて言われても「そうですか」とはなれんですよ。ペクアは「ウヒが本当のことを言えなかったのは自分のせい」と悔いていて、それは裏を返せば「本当のことを言ってもらっていたら、ウヒを助けることができた」と思っているということ。死の直前ではあるけれど、ワンソは知っていたのに。ワンソ本人も「悪かった」と自分の非を認めてますね。

ペクアは最後にワンソを「兄上」と呼んでいて、「ワンソを皇帝とは認めない」と暗に込めます。ペクアが死ぬとわかっても戦場に行く決意をしたのは、ウヒの疑いを晴らすためであると同時に、ワンソの皇位を守るためでもありました。でも、その皇位はウヒを守らなかった。守る気もなかったのです。

 

とはいえワンソがもっと下手をしていたら、皇帝として国を変える未来もなくなるので、単純にワンソを責めることもできないんですけどね。ウヒは「民かペクアか」っていう究極の二択からは逃げなかったけれども(ある意味両方を選んだ)、そのせいで死んでしまったわけですし。

 

ワンソは選択から逃げたことで、皇位(命)を守りました。ワンソは利己的になりました。しかしその代償として、他者の命が失われ、心を支えた大事な人物は去る。因果応報ルールは残酷な程に猛威を振るいます。

 

ウヒとペクアに関してはこんな感じですかね…。

今回は命についてのデリケートな問題がからんでいて本当に難しかった。何を書いても間違っているように感じました。ウヒの悲劇で誰が悪いかっていうのは、見る人それぞれの倫理観みたいなものも出るでしょうね。

「良い」「悪い」の反転とか、逃避としての恋愛とか、自死を選んだウヒの利己的な面とか、ほんとは色々もっとやりたいけれど、字数がヤバいのでやめます笑(この辺はウクと比較すると興味深い。彼も11話で倫理的に難しい選択をしてますね。ま、私がウクが好きだから何を見ても比較しちゃうだけですけど…)。

 

はぁ…利己的って何だろう?優しさって何かね。

こんだけ書いてもこんなこと言ってるのどうかと思うけど笑、答えのない問題に出会ったら答えがないということを受け入れて迷い続けるしかないのかな。

 

つづきます笑。

 

(まだ19話やります汗。マイペースすぎる更新ですみません大汗。)

 

 

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 『緋文字』がらみについて触れたエントリー。

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