☆ネタバレしています:ご注意ください☆
主人公・メイソン(エラー・コルトレーン)が6歳から18歳になるまで、主人公だけでなく、両親、姉役を12年間同じ俳優で撮影したっていうのが、やはりこの映画の一番の触れ込みだと思います。そして確かに凄い。
編集が本当に見事で、気付いたら「あ、もう1年経ってる!」っていうのがわかる。いま何年ですよ、とかは提示されないんだけれど、ただメイソンや他の家族を見れば時間の経過がわかるようになっています。人生と同じで気付けば時間が過ぎ去っているんです。
子供の1年ごとの成長って本当にすさまじい。ぐんぐん大きくなっていく。最初は天使みたいだった子が、だんだん現実のなかで生き始めて、思春期でちょっと悪さもしながら、自分というものを獲得していく。途中で声変りもし、最後はヒゲボーボーだもん。うわ、12年の積み重ねってこういうことなのか。これは同じ俳優を撮り続けたからこそ出る凄みです。
しかもこれをフィクションで見せるっていうのが、素晴らしいアイデアだと思います。企画自体は壮大であっても、大げさな出来事はあえて起こさず、物語として節度を持って抑えた演出をしていて品がいい。ドキュメンタリーの方がむしろドラマチックになり過ぎてしまう気がするよ。
私は女系家族育ちで、男の子の成長っていうものがてんでわからないので、あんなに可愛らしいくて、しかもなんだか聡明な感じの少年が、大きくなる過程を見れるっていうのが興味深くて。
つまりお母さんの目線で見てしまっていたんですね。
メイソンの両親は、映画のスタート時にはもう既に離婚していて、母・オリヴィア(パトリシア・アークエット)が子供たちを引き取って生活していました。
息子が大学に入るために、家を離れるという場面。一人残されるお母さんは、息子に涙ながらに語ります。
だけど息子は、これからやっと自分の人生を歩き出そうとしている若者なので、お母さんの言っている意味が理解できない。何言ってんだよ、葬式だなんて40年先の話だろ。
成長し続けた12年と、大人としての格闘を続ける12年では、感慨も意味もまるで違うんですね。メイソンが高校を卒業して、家族や知り合いみんなで、主人公を祝福するパーティーがあって、すごく感動的なんですけれど、大人が12年頑張ってもパーティーなんかない。
でも、このお母さんは、凄い人なんですよ。この12年よくぞここまで頑張ったって思う。
子供を2人も抱えながら、大学に入り直し、大学院まで卒業して大学の先生になる。生徒にも慕われるような優秀な教師です。
それだけじゃない。恋もちゃんとして再婚だってする。この相手がまたね、あんまりよくない相手だったりして揉めたり逃げ出したり大変なんだけれども、それでも、この12年間ずっと格闘してきた訳です。
ここからもう更にネタバレになるんですけども、私が一番感動したのは、やっぱりお母さんがらみで。まだ上映中なので、書いてごめんね、なんだけど(笑)。
メイソンが15歳の時、家の配管が壊れてメキシコ系の修理工が家に来ます。そういう実務的な手配だとかは、家に責任を持つお母さんしかしない。で、配管工で唯一英語が話せる少年がなんとかお母さんと交渉します。片言だけど、この子はしっかりしてるなっていう佇まいがまた素晴らしいんですけれど。
話もついて「じゃあ、お願いね」っとなった後に、お母さんは少年にさりげなく言います。「あなたは賢いんだから、学校に行きなさい」と。行きたいけど、お金も時間もないという彼に、お母さんは更に言うんですね。「夜学があるじゃない。授業料も高くないよ」って。
それからまた時間が経って、メイソン18歳。レストランにいる母と子供たち。息子も家を出ることになり、家のことだとか、これからのことだとか、色々話すんだけど、子供たちはいつまでも子供で、全然話がまとまらない。
そんな時に現れるんですよ。あの時の配管工の少年が。
よれよれの洋服を着ていたあの子が、ピシっとしたシャツを着て。そして母オリヴィアに話しかける。流暢な英語で。
あなたは覚えてないだろうけど、僕、昔あなたの家の配管を直したんです。その時、あなたは僕が賢いから学校に行った方がいいっていってくれた。僕はそのアドバイスに従いました。夜学で英語を学び、短大を出て、今は大学で学びながらここでレストランのマネージャーもやってる。
あなたは僕の人生を変えてくれた。ずっとお礼が言いたかった。ありがとう。
母はこの少年のことを覚えていました。
彼は子供たちにこう言います。
「君たちも彼女の言うことを聞いた方がいいよ。賢い女性なんだから」
この彼も、同じ役者さんです。この子もまた3年の間で成長していました。あの英語さえギリギリ片言だった少年が、知性と気品にあふれた青年に。しかも、さり気ない母の一言が、彼の人生を激変させていた。もちろん、この青年の努力なしでは得られない、人生の激変なんですけれどもね。
正直ここで一番泣きましたよ、私は。やりがいのある仕事は手に入れても、男も子供たちも去っていく。この頃の(というか、いつも)オリヴィアは、寂しさと戦っている。
そんな時に不意に訪れた、彼女の人生への祝福。
「頑張ればいいことがある」ってきっと、こういうことなのかなっていうふうに思いました。たとえそれが直接自分に関係はなくとも、あなたが生きて人と関わることで、誰かを幸せにしているんだ。
今までツンケンと話し合っていたオリヴィアと子どたちは、ふわりとした幸福感に包まれます。(このあと、「次は葬式」って泣くんですけどね。この構成もいい。)
メイソンは写真家への道を歩んでいこうとするんだけれど、彼にカメラを与えたのもまた、後にメイソンを通り過ぎていく人物でしたね。
一方、お父さん(イーサン・ホーク)も面白くて。
最初はふらふらバンドやったりして、たまに子供たちと遊ぶだけっていう、おいしいとこだけ持っていく無責任な若い兄ちゃん。選挙の時にはオバマだオバマだって騒いだりね(笑)。
そんな人もまた、12年の間に変わっていくんですよ。保険会社に就職し、ゴリッゴリの保守の娘と結婚する。だってこの奥さんの親である義理のおじいちゃん、おばあちゃんがメイソンの誕生日プレゼントにくれたの、銃と聖書だよ(笑)。
お父さんも、この12年の間で子供っぽい自分や現実と折り合いをつけて、大人になっていくんですね。再婚し、子供が生まれ、家庭人になっていく。
あまりの大転換にちょっと笑っちゃうんだけど(笑)、イーサン・ホークが自然に演じているので、「嘘だぁ」とはならないのがすごい。どんなに変わっても、このお父さんの朗らかさはそのままなんです。人間の核はブレない。メイソンやメイソンのお姉ちゃんへの愛情も変わらない。
この人の12年もまた祝福されるにふさわしいものだと思います。
物語の最後、メイソンは次の恋を予感せる新たな友と大自然の中で語り合います。
時間についてです。
私たちは「瞬間をとらえる」というけど、そうではない。「瞬間が私たちをとらえるのだ」と。
姉弟げんかばかりの子供時代。絵本を読んでくれた母。時々やってきては思いっきり遊ばせてくれた父。友達。母の再婚相手の不機嫌。無理やりされた坊主頭をかっこいいと言ってくれた女の子。先生の励まし。初恋。
時間が過ぎれば過ぎるほど、たくさんの出来事と、出会った人々が積み重なっていく。だけど、私たちにはその瞬間瞬間が与えられているにすぎず、つかみとることは出来ない。ただ過ぎていく。だから「いま」なんだ。いまを生きることしかできないんだ。
これだけ時間をかけて作った映画が最後に語りかけるのは、人生の瞬間 、瞬間の貴さでした。
上映時間が165分という長尺なんですが、一人の少年とその家族の12年を通じて、生きていくことの無限と有限を考えさせてくれる、とてもいい映画でした。両親役のパトリシア・アークエットとイーサン・ホークも本当に素晴らしい仕事をしてます。
邦題についてあれこれいうのが、野暮に思えるくらいに。
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ビフォア・サンセットの中でも確か、人生のモーメントについて語られていますね。
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