☆最終話までの展開を含めたネタバレしています☆
☆まずはネタバレなしで見たほうが、圧倒的に面白いです☆
前回、「私の者(ネサラミ)」について考えてみたところ、屁理屈こねたみたいな小賢しい方向に行ってしまいました。そして、案の定迷子になりかけたので、いったん撤収しました(笑)。ネサラミとは、人間の存在そのものを問う底が見えない概念…。これについては、また改めて考えます。
さて、18話のつづきです。
皇后ユ氏の色々までやろうと思ったのですが、ちょっと分量的にまたおかしなことになったので(焦)、今回はジョンに絞ります。物語の後半になればなるほど、存在感を増していくのがジョンですね。
ジョンは伝えるべきことを、ちゃんと伝えている
ワンソとヨンファの婚姻儀式が行われる一方、ひとり「願いの石積み」の前で祈るヘス。そこへジョンがふらりとやってきます。
このジョンが、口笛を吹きながらやってくるのですよ。この演出、どなたが考えたんだかわからんが最高だとおもう!口笛ひとつで、ヘスの心(と視聴者の心)をぐっと軽くしてる。事態の深刻さを、一瞬だけ忘れさせてくれます。ジョンよ、ありがとう…。18話の冒頭から緊張が続く中、ここで一息つく…と見せかけて、ジョンが「皇宮を出る方法はある」と17話から引き続きヘスに念押しする大事な場面です。合言葉は「望む」。その言葉さえ言えばいい、と。
このシーンは短いんだけども、ものすごくよくできている。
私は基本的にネタバレ全開で書いてますけれども(本当にすみません)、以下このジョンシーンについては最終回の展開にまで言及します。ご注意願います。「さすがにそこまでは」という方は、この後の太字小見出しまでお進みください…(本当にすみません汗)。
ヘスを励ますように、少しおどけながら話し始めるジョン。ヘスにも笑顔が戻ります。
「俺も招かれざる客だよ。ヨンファ姉上には誘われたがな(笑)。…これでも我慢するのか(真剣)?」
「ご心配なく。私は不幸じゃありません。神聖皇帝が『遠くを見ずに今を大切にしろ』と。そのお言葉のとおりにしています」
ヘスが「不幸ではない」と言うのは、17話でジョンが「お前が不幸にならぬか心配だ」と言っていたのを受けてでしょう。と、同時にヘスは「不幸ではないけれど、幸せだとも言えない」状況っていうことでもあるんですよね…。「遠くを見ずに今を大切に」しているのも、裏を返せば「今を大切にしてるけど、将来が不安だ」と言っているようなものです。
ヨンファにも「不幸はお前の選択だ」って言われちゃってるし、ヘスは追い詰められている。
ジョンは何か考えながらも、飄々と話を続けます。
ジョンは言葉を選んでいる。
「俺のところに来ればいい。良くしてやるのに。ここにはうんざりなのだ」
また何か思いたち…
ヘスの肩を抱くジョン。
「俺たち、一緒に遠くへ行こう、鳥のように。(ヘスのかんざしを指して)そう、この蝶のように自由に生きよう!」
「遠く戦場を巡り、武芸の練習を見せるだけなのはわかってますよ(笑)」
ここで一気に真剣な表情と口調になるジョン。
「『望む』と言うだけでいい。連れて出る」
「『望む』と言えば、なんでも叶えてくださるのですか?」
ヘスは本気にしませんが、ジョンは真剣なまま。
「そう『望む』。『望む』と言うだけでいい。覚えておけ。『のぞむ』」
ヘスは笑顔でうなづく。二人の会話にはズレがある。
この会話の間、ジョンは何度も逡巡しています。飄々と逡巡を行き来する。
なぜ逡巡するのか。
「俺のところにくればいい」「一緒に遠くに行こう。自由に生きよう」。
これって…プロポーズですよね…。
実際、ジョンが言う「宮の外に連れて行く方法」とは、婚姻(19話で判明)。
ジョンは契丹との闘いを勝利に導いた褒美として、皇帝であったワンヨから「ヘスとの婚姻を許す」という証文をもらっていました。インター版では、既に16話でそのやりとりが出ています。証文の内容までは描かれませんが、ジョンはワンヨから何かもらっていた。「私が長年叶えたかったことがある」と、何かお願いしていました。皇命は皇帝が亡くなっても効力は続き、しかも現皇帝よりも先帝の命令の方が力を持っています。
このジョンとヘスの会話が行われる「願いの石積み」は、ワンソがヘスにプロポーズした場所。おおよそ同じ構図で、同じように肩を抱いて、兄弟はヘスに求婚しています。ワンソも「共に生きよう」とヘスに言っていましたね。
ワンソの求婚は夜。ジョンは昼。
また「願いの石積み」は、母子の象徴の場。母が子の幸せを願って石を積んだ、とドラマの初期に説明されています。ただの願掛けのためではない。
…ヘスはこの時もう、ワンソの子を宿してるのですよ(最終話で判明)。
ヘスの夫として、ヘスの子の父として生きることができるのはジョンです。皇位と心は両立しないから、皇帝であるワンソは、私人としての幸せを得られない。
思えば、皇后ユ氏はワン・ゴンに対して皇帝であると同時に夫/父であることを望みましたが、叶うことはありませんでした。ユ氏兄弟は図らずもその役割を分かちます。それを予見させているのがこのシーンであり、18話の流れです。
だからヘスへの求婚は、ワンソは夜に、ジョンは昼に、そして場所は二人そろって「願いの石積み」の前でなければならなかった。
加えて言うと、最終回でワンソとジョンが数年ぶりに再会するのも、この場所。兄弟を繋ぐのは、「願いの石積み」であり、ヘスであり、ヘスとワンソの間に生まれた娘でした。
プロポーズとはギリギリわからないように、でも結末まで知れば確実にプロポーズになっている、このシーンの描き方とジス君の演技が素晴らしい。カンのいい方はわかるのでしょうが、私は全然わからなかったです。ほっとしたのと、ただならぬジョンの『望む』の畳みかけに気を取られて、初見時はジョンの言葉がプロポーズにまでなってることに気づかなかった(制作者の思うつぼ笑)。ヘスはジョンに「旅に出て、海や砂漠を見たい」(16話)と言っていて、17話でもその話が出ていたしさ…。まさか、散々ワンソ、ヘス、ウク、ヨンファが婚姻話でごちゃごちゃしたあとに、また婚姻という手で攻めてくる人が来ると思わないじゃない!
でも、ジョンがあまりにも真剣だから、単に「ここではないどこかに二人で行っちゃおうぜ」的なチャラチャラした感じではないことはハッキリわかるんですよね。このさじ加減。ジョンは初期の頃はちょっとアホな子として描かれているので、あえて植え付けていた先入観もうまく働き、2度見るべき重要なシーンになっています。
後になって、「これワンソの求婚の時と同じ構図だなぁ…っていうか完全にプロポーズじゃん!!」って一人興奮したものですよ…。だいたい、こうやって一人で盛り上がって喜んでいます(笑)。
ジョンが凄いのは、実は誰よりも強いカードを持っているにもかかわらず(だからこそでもあるけど)、身勝手な行動には出ないし、ヘスに無理強いを全くしていないということ。彼は、ヘスがワンソの女人だとわかっています。あくまでヘスの選択を待つのです。「皇宮の外に出る方法がある」ことだけを伝える。婚姻できなくて悲しんでる娘に、出官方法が婚姻だなんて言えないし、でも宮を出るには婚姻しかないから、「ただ『望む』と言えばいい」とだけ伝え、詳細は自分がひとりで引き受けています。男だね。
そもそも、ジョンがワンヨから「ヘスと婚姻してもいい」と一筆書いてもらっていたのは、ウン夫妻の悲劇のあと久々に再会したヘスとの会話がきっかけになっていると思われます(16話)。「婚姻は?しないのか?貴族の娘は婚姻すれば出官できるじゃないか」と聞くジョンに(この発言が伏線だった)、ヘスは「私に行くところなんてない。引退したら砂漠や海を見に旅に出たい」と答えていた。
ジョンはヘスをずっと想い続けていて、ヘスとの婚姻を夢見ていたとは思いますが(「長年叶えたかったことがある」とワンヨにお願いしているわけだし。あぁ、ワンヨはこの件を知っていながら、あんなふうに亡くなったんだな…)、婚姻はあくまで官女が出官する手立てとしてるところが大きい。ヘスを騙している感じがしないのも、そういうところからくるのだと思います。
(追記:インター版だけですが、13話でもジョンはヘスに「俺が帰ってこさせる。もう大人だから」「もう姉上とは呼ばない。俺が責任をとるから、待ってて」と言ってるんですよね。このシーンのことすっかり忘れてた。最近、初期・中期の伏線を忘れつつある…汗。ジョンは4話でヘスに助けられてから、ヘスに何かある度に「ヘスを助けたい。力になりたい」と思い続けてきた人なんだよなぁ)
歴史通りの婚姻
ドラマに没入しすぎて、最近つい忘れがちだったんですけど、一応このドラマって史実に基づいているんですよね(今更)。ワンソとヨンファの婚姻は歴史に残っているんですよね…。いや、わかってましたよ!知ってたよ!むしろ初見時は「ワンソが皇帝になり、ヨンファと婚姻するのは歴史上の事実」だけを頼りに見ていたんだよ?
でも、ここのところはひたすら心を追うような見方に終始しておりましたので、若干歴史的観点が抜けてるところが多々ありました(苦笑)。そりゃ、ワンソとヘスは婚姻できないよね。(っていうか、ヘスの中の人はハジンなわけだし、ワンソの言う「ネサラミ」って何なのだか、いよいよわからなくなってきたよ。ヘスがヘスである、ってどういうことなのか)
『麗~』は歴史ドラマの中にファンタジーを入れこんだ物語ですが、「そもそも歴史とは何か?」というところまでこのあたりから踏み込んでいっているのが、またすごいです。
というわけで、歴史は変わることなく、ワンソとヨンファは婚姻しました。
しかし、ワンソにとっては完全に不本意な婚姻であり、「本当の」皇后はヘスだけだと思っているので、ヨンファに滅茶苦茶冷たい。ドラマが始まった当初のワンソとヨンファは、お互い結構まんざらでもない感じだったのにね。
(ワンソはヘスに甘えるという形で、結局皇位を選んだとも言えるので、ここまで不機嫌なのはちょっと違うんじゃない?って思ったりもするんですけどね。でもファンボに総出で脅されたからな。やっぱ、怒るか…)
一方ヨンファは、自分から何度もワンソに求婚してるくらいだし、やっぱり嬉しい気持ちがある。「皇位か心か」という問いが何度も何度も出てくるわけですが、結局心がいらない人なんていないんですよね。心を欲することが、人間らしさなのかもしれない。
ヨンファには「婚姻すればワンソの気持ちは動く」という期待があったはず。
ワンソに全く受け入れられないヨンファは、「ヘスは今度も利用されます。そんな危険要素は…」と、ヘスとの共存関係をあっけなく自ら壊そうとしますが、「お前は皇后の務めに励め。二度と出過ぎたことはするな」と、更にワンソの拒絶感を強めてしまいます。
皇位を得たことで、ワンソもヨンファも、孤独を深めていく。余計に心が欲しい。でも、皇位がその邪魔をする。
政の安定とジョン追放
ワンソがヨンファと婚姻したおかげで、政はやや安定。議会には豪族たちが集まります。ジモンやペクアはもちろん、ウクもいる。
ワンソ即位直後、この部屋はほとんど空でした。
「皆が集まって、満足。即位を知らしめる年号を定める」と、皇帝然としてくるワンソ。年号は「光徳」。
「よいと思わぬか?」と、ワンソは真意の見えない笑顔を向ける。
ウクは一瞬の冷笑をこぼしながら「陛下の仰せの通りに」。そんなのどうだっていい感を醸します。さっと流す。そして、それより大事なことがあると言わんばかりに、「労役者に米を支給する法案も進めております。…あぁ、ただしその財源の確保は我々に一任を」と強気な姿勢を見せる。権力の全てをワンソに握らせない気です。ウクは妹の政略結婚だけでは、全然気持ちが収まっていない。そりゃそうでしょうけども、あぁもうやめてウク…。
ジモンは、ウクの発言に心のざわつきを見せますが、ワンソはウクの提案を認めます。ペクアも「え、ウクに任せていいの?」って感じで驚いてますね。
「皆が頼もしいゆえ、俺は狩りを楽しみ、読書を進める。司天供奉に『貞観政要』を勧められた」。
ジモンが「徳を磨くのに最良な本」と勧める「貞観政要」は、「唐の太宗が、君臣と政治問題について問答した内容を記録した本」。Wikipediaを見ると(すぐwikiを頼ってしまう…)、「帝王学の教科書」と説明されています。全10巻40篇。長いですね。太宗は、中国史上有数の名君の一人と称えられているとのこと。
本のタイトルにある「貞観」っていうのは太宗在位時の年号らしいんですが、それを読むって言うワンソもここで年号を宣言してる。既に影響を受け始めている…ということですよね、たぶん。ワンソの皇帝としての本気度は高いですからね。
このワンソの発言に反応するのが、ウクです。学問に強いウクは、間違いなく「貞観政要」のことを知っているわけで。ワンソがこの本を読む、ということに引っ掛かりを覚える。
狩りと「貞観政要」。これに反応しなければなぁ。でも、気づきの人だからなぁ。
ワンソは更に続けます。あくまで、なんでもないような口調で。笑みをたたえながら穏やかに、冷酷に。
「それから、第14皇子ジョンを謀反に準じた罪で帰郷刑に処す」
帰郷刑とは、「社会的自由と特権をはく奪し、始祖誕生の地へ送る刑罰」。
ぺクアは思わず、「陛下!理由が確かであると言葉に重みが生まれるかと」と声を上げてしまいますが、ワンソの態度は変わらない。
「先皇の遺言を口実に、皇位継承を疑い俺に組織的に反発した。同腹弟であることを考慮して官職をはく奪し、外戚の忠州へ送る。今日以降、一歩でも松岳に入れば死刑に処する」
議会には動揺が広がります。
ジョンの帰郷刑の話は、ただじっと聞くウク。
何も言わないし、言えないジモン。
ワンソがジョンに重い罰を与えたことに、ペクアは不安を隠せない。
政治の安定を得たことで、ワンソは権力を少しずつ、しかし着実に自分のものにしていきます。皇帝の権力は絶対。ほとんど、なんでも可能になる。力を持つ者の本質が浮き彫りになります。
これ本当に怖いな、と思うのは、ここから本格的にワンソの皇帝らしさが増してるんだけど、それはワンソを皇帝だと認める人たち(=豪族)が一気に増えたことに呼応してるのですよね。理由がどうであれ、フォロワーが増えたからこそ、たくさんいるからこそ、より強い権力を誇示できるようになっている。現実世界でも、起こり続けている現象。
ジョンが帰郷刑に処されたことを知った皇后ユ氏は、ショックのあまり倒れてしまいます。ワンヨが亡くなり床に伏していた彼女は、このまま危篤状態へ陥っていく。
「帰郷?ジョンが帰郷刑に?」
単純な兄弟の争いではない
ジョンの幽閉を、ペクアとウヒから聞くヘス。「帰郷刑は死刑の次に重い罰であり、大将軍の職位と統率権も失い、二度と松岳にも入れない」ということを教えられます。
ヘスは「30万の官軍を率いた方です。この皇宮ですら息苦しい方なのに、家で暮らすとは。陛下にお願いしましょう。ジョン様がどうなってしまうかわかりません」って言うんだけど、二人に食い気味に止められる。
ウヒ:「関わってはだめよ。あなたには息子がいない。下手をするとヘスも大変な目に遭う。もうこれは単純な兄弟の争いではないの」
ぺクア:「ウヒの言う通りだ。様子を見て、怒りが静まったら説得しよう」
もしヘスにワンソとの息子がいれば、その子にも皇位継承の可能性が生まれます。でも、息子はいない。ワンソには、まだ子供が一人もいません。これから、ワンソの息子を生む可能性があるヘスは、危うい立場にいるのです。ヨンファが息子を一刻も欲しがるのも、ヘスの存在はかなり大きい。
ウクは妹が皇后になった以上、早々謀反は起こせない。ペクアも皇位は狙っていない。ウォンも、まぁ無理でしょう。
となると今、最も皇位を脅かす存在はジョンなのです。ジョン本人は皇位に興味はないでしょうが、ワンソが言うように譲位を疑う上、一族の高麗独立を率いています。状況的には一番の危険分子。野放しにはできない。
ワンソはこれから、どんどん危険分子を排除していくんだけれども、その最初がジョンになるのは必至です。この罰には皇位争いが依然絡んでいる。恐らく、ウクにもそれがわかっているから、帰郷刑に動揺を見せなかった。ペクアとウヒも簡単には手を出せる問題ではないと理解しています。皇位を守るならば、ワンソの判断はある意味当然の流れなのでしょう。ジョンの帰郷刑は、命を奪わない兄弟殺しです。
母の危篤と独占
ジョンが処されたことを知った皇后ユ氏は、もはや動けない状態に。
やってきたヨンファが官女に容態を尋ねると「太医の話では陛下と皇后さまも皇太后さまも近づくなと…」。確かにこの病はワンソが原因を作っているから、ワンソやその妻であるヨンファが刺激するのはよくない。太医の診断は正しいですね…。
「ジョン…ジョンを呼べ…ジョン」としか言わない皇后ユ氏。
そこにやってきたワンソは「皇太后の看病は俺がする。俺の許可なしに誰もこの部屋に入ってはならぬ」と、母の独占を宣言。
笑みを浮かべ、母の額を拭く息子。息子を無言で睨む母。
「早く回復してください…母上…」
ワンソの母への執着に驚くヨンファ。「この人ヤバいかも」と感じているはず。そういう顔してるもの。それでも、このあとワンソに愛情を求めていくのは、結構すごいことだと思う。
一方、母の危篤を聞き駆けつけたジョンですが、帰郷刑に処されているため宮殿の中に入ることが許されません。
元将軍でも、兵たちに阻まれる。
「母上に会うまで一歩も動かぬ!どけ!」
ヘスはワンソに「ジョン様を入れてあげてください。皇太后さまに何かあれば一生の後悔に」と頼みますが、「ジョンを呼んだのはお前だな。誰も伝えてはならぬと言ったのに、ジョンに知らせた」と、逆にワンソの怒りを増幅させます。
「はい…私です。離れて暮らしているゆえ、臨終には立ち会わねば」
「流刑地を離れたら死刑だ」
「陛下!」
「今すぐ殺さぬことを幸いに思え。ジョンを皇宮に入れたら、たとえお前でも許さぬ」
ヘスの説得は効かない。この説得はワンソのためでもあるのに…。
この鋭い目つき!
ワンソは母の危篤をジョンに伝えたくなかった。ここが、ワンソ、というか人間って複雑だなと思うところなんですが、ワンソは皇位の為にジョンを帰郷刑に処した一方で、やっぱり母を独占しようともしているんですよね。単純な兄弟の争いではないけれど、単純な皇位争いでもないのです。ワンソにとって、母は全ての始まりであり、一番手が届かない人。ワンソの行動原理の根っこには、「自分を愛さない母」が常に居座っています。お母さんのこととなると、ワンソはいつもどうかしちゃう。
あと、インター版を見直していてぞっとしたのは、ワンソが「流刑地を離れたら死刑だ」の前に「ジョンまで殺すのか?」と言っていたことです。このセリフは韓国版にはありませんでした。
ワンソは皇位獲得の際に宮にいた官女や兵、譲位にいちゃもんつけた人達をもろとも殺してしまっています。「一人も残すな」と命じていましたね(17話)。この命令は、ヘスが譲位について皇后ユ氏とジョンに問い詰められた直後に、ワンソが怒りながら出したものです。「ジョンまで殺すのか?」は、「お前のせいでこれ以上人が殺されてもいいのか?」ともとれる言葉。ワンソは「ヘスのためでもある」という自覚のもとに、既に大粛清をしているのです。
この言葉は強すぎるので、韓国版では消したのでしょう。でも、状況的には同じなんですよね…。
ジョンは母に会うまで、本当に動こうとしません。セミの声が鳴り響く中、宮殿の前に一人立つ。
数日間ずっとここに立ち続け、ふらふらになるジョン。
癒しの人・ペクアはジョンに水を差し出します。しかし、宮殿の中に入れることはできない。
ジョンはペクアからもらった水を、迷わず頭にかけ…
口に入った水を吐き飛ばす!ジョンもまた意志の人。
ジョンはここでペクアの水を飲まない。ジョンがしているのは、ワンソへの抗議であり、危篤の母の傍にいるということでもあるから、自分だけゴクゴク水を飲むわけにはいかないんですよね。でも、ペクアの優しさをありがたくも思っているから、その水を頭からかぶるわけです。この演出もすごくいい。ジョンの男気が溢れてる。
このドラマは10年くらいの期間が描かれていて、ほとんどのキャラが変わっていきますが、ジョンは最も好ましい変化を遂げている人ですね。好ましい変化のことを成長というのかな。演じるジス君が、またいいんですよね。心情と言動がしっかりリンクしていているので、役を組み立てながらお芝居をするタイプなのかな。大人になりたての青年感と、どこか古風な雰囲気もまとっていて、とてもいい役者さんだなぁ。
(私はハヌルファンでありウク推しですが、ここまで見てると俳優さんたちみんなを好きにならずにはいられない。浮気者と呼ばれてもいい。とにかく全員を賞賛したい…)
皆がままならない事態に直面する中で、ジョンは健全さを保ち続けます。この健全さは、皇后ユ氏の育て方によるところが大きいし、何より彼女がこういう健全さを権力や地位や名誉と同じくらい求めていたのだと思います。死の床で皇后ユ氏がジョンの名前を呼び続けるのは、ジョンが持つ健全さが、文字通り母の生きる糧になっていたからなのかもしれません。
つづきます。