お出かけ手帳

誤字脱字病。書いては直す人生。

2021年7月 印象に残った作品

☆ネタバレしています☆

 

こんにちは!

 

日々いろいろ…本当にいろいろありますが、みなさま元気にお過ごしでしょうか…。

 

7月どころか8月ももうすぐ終わりとなりますが汗、7月の印象に残った作品を書いておこうと思います。

 

ただ、7月の私は、夏バテになってしまったのと、悪いニュースが多いのが気になり過ぎて、映画やドラマをほとんど見ることができませんでした苦笑。韓国ドラマに関しては1本も見ることができませんでした(なんと)。

 

そんなわけで今回の記事は映画について、しかも1本のみのご紹介となっております汗汗。こんな月もあります笑。

 

 

『はちどり』(2018年/韓国)

 1994年、ソウル。14歳ウニの日常と非日常。

 

評判通りの素晴らしい作品でした!

 

ただ正直言うと、見始めて半ばすぎるまでは、見始めたことを後悔していたのも事実です。というのも、この作品で描かれるウニの毎日があまりにリアルで、心が痛いのですよ…。14歳の女の子の目線で家族、学校、塾…等での様子が描かれるんですけれども、本当につらい。いつもえばっている父、疲れている母、殴ってくる兄、彼氏と遊んでばかりの姉、友人や後輩の心変わり。劇的な演出はつけずに、淡々と描いているところがかえって刺さります。父の「家長」としての乱暴な振る舞いはあまりに家族に馴染んでしまっているし、兄はそれこそウニが「なんか幸せそう」みたいな理由(本人は明言してないけれども)で自分のストレスのはけ口として殴ってくるんだけれども、両親に言っても「喧嘩はするな」で終わってしまう。ウニのまわりには静かな暴力があふれてる。

 

自分が中学生の時の悲しい出来事も芋づる式に次々と思い出され、時々停止ボタンを押しながらでなければ見られませんでした。劇場公開時に予告を見た時から、こういう気持ちになるのは予測していて、かなりこの作品を警戒してきたんですが笑、やはりあの警戒は間違っていなかったなと思いました笑。ウニと世代がほぼ同じってこともあるかもしれませんが、世代が違っても多くの人の心に突き刺さると思います。

 

でも、それでも、この作品には絶妙な希望があって、最終的にすごく励まされるんですよね。

 

なによりも、ヨンジ先生の存在がとても大きかった。

ウニは漢文の塾に通ってるんですが、そこで出会ったヨンジ先生というのがすごく素敵な人で、ウニは(たぶん)初めて大人の人にちゃんと話を聞いてもらうんです。それで先生は「悩んだときは自分の手をみて、動かして見てごらん。何もできないと思っても、指は動かすことができる」って言うんですよね。なんて優しい慰めなんだろう。でまた、先生はただポジティブっていうんじゃなくて「私も何度も自分が嫌になるよ」という感じの人で、自身も喪失を抱えたような雰囲気があるから、すごく説得力があるんです(先生は民主化運動に参加して何かしらの挫折があったのでは、とのことですね)。ウニが兄から殴られてることに対しても「殴られたなら立ち向かわないと。黙っていてはだめ」と言ってくれる。

 

それで、ウニはもちろん出会ってすぐに先生が好きになるんだけどもね…。先ほど「絶妙な希望」と書いたんですが、単純な希望とは言えない、なんとも悲しい出来事が最後に起きるんです。

 

(ここから更にネタバレします)

 

劇場公開からだいぶ経つので、思いっきりネタバレをしますが、このヨンジ先生が終盤でなんと亡くなってしまうんですよ。聖水大橋の崩落事故で。ものすごい悲しい展開なんです。とにかく悲しくてたまらない。

 

でも、それなのに、最後は元気が湧いてくるんです。

 

もちろん、事故で亡くなるっていうのは本当に悲しい。こんなことが起きないほうがいいに決まっています。橋の崩落は実際にあった事故で、原因は手抜き工事だったそうです。人が人を大切にできなくなった社会が生んだ悲劇で、これは韓国だけの話ではありません。

 

ただ一方で、人の命には限りがあり、人生をいつかは終えなくてはいけない。それがいつかも分からない。そういうなかで、「何者」でもなかった先生は(先生は大学休学中の実家暮らしで、亡くなった時は塾を辞めていたので「先生」ですらなかった)ウニにささやかだけれども確かな希望を伝えていました。そのことが私を励ますのです。先生は死の直前、ウニに「人生は不思議で美しいよ」というメッセージを残しますが、鑑賞後にまさに「生きていくことは孤独で過酷だけれども、それでも人生は不思議で美しいんだな」と温かさを感じたのでした。

 

「主人公に大きな影響を与える人物が何もなしえぬままに突然死んでしまうけれど、それでも生きることには希望がある」っていうことを描いたフィクションは、結構あると思うんです。でも、このメッセージを素直に受け取らせてくれる作品はそう多くないんですよね。これは表現するのがとても難しい。死というものはあまりに重く、中途半端にあれこれ希望を置いて描くと、その希望は「作りごと」でしかなくなってしまうから。リアルを積み重ねないと、真実には到底感じられないメッセージなんです。

一方で『はちどり』はこの希望を見事に描いていました。リアルな痛みがあるからこそ到達している人生の美しさを感じたのです。信じるのがとても難しい希望を、信じさせる力がありました。

 

もうね、最近辛い出来事が本当に多いじゃないですか。感染症関連ももちろんそうだし、ウィシュマさんのこととか、小田急線の事件だとか、某YouTuberのホームレスや生活保護を受けている人に対する発言とか…。海外情勢も過酷です。一人ひとりが大事だという意識が希薄になってしまっている出来事ばかり起きている。で、こういうことが起きてしまうのは、加害者自身も常に何かに脅かされているからっていうのもあるんですよね。自分の自尊心を守るために人を傷つけてしまう。そこまで追い詰められるのはつらいでしょう。でも、だからといって、人を傷つけていい訳がない。それは圧倒的な理不尽であり、暴力でしかありません。

 

『はちどり』では、ウニのお父さんもお兄ちゃんも、競争社会の中で追い詰められ、きっかけさえあれば、涙が止まらなくなってしまうほどの、ギリギリの精神状態のなかで生きている。そんな中で、彼らは自分よりも「弱い」家族を傷つけますが、それはどんな理由にせよ、してはいけないことです。

一方で、お母さんの兄(ウニのおじさん)は、競争社会についていくことができず、酒浸りになり、他者を傷つけない代わりに自らを傷つけて亡くなってしまいます。何もしていないようだったおじさんですが、彼こそがウニのお母さんの一番の理解者であり、兄を失ったお母さんは心の大きな支えを失ってしまいます。

 

世の中はあまりに複雑で、競争は常に側にあります。そして競争が暴力を生んでいる。そんな社会を変えようとしても自分ひとりではあまりに無力です。

でも、何もできないわけじゃない。少なくとも、私たちは指を動かすことができる。何者にならないままでも、人に何かを伝えることはできる。ひとりの女の子をささやかに救うことはできる。あまりに小さな希望かもしれないけれど、ずっと心にしまっておきたくなる希望でした。

 

ヨンジ先生は、ウニとの初めての授業で「たくさんの知り合いの中で、心がわかるのはどれくらいいるだろう」という意味の漢文を紹介します。幸せそうに見えても、本当にそうかはわからない。暴力を振るう人間にも弱さがある。人の心はなかなかわからない。だからこそ、わかってくれる人がいたら、誰かを理解することができたら、とても嬉しい。

それは、人と比べずに、自分や他者を個として見つめなければ生まれない喜びでしょう。本当にとても難しいことですけれどもね!

 

はちどり

 

重層的な物語で、主人公ウニだけでなく、すべてのキャラが大きな意味を持つ素晴らしい作品でした。評判がいいので見た方も多いと思いますが、未見の方はぜひ!前半辛くても、最後まで見てね!ウニのお母さんのエピソードもすごくいいんだけれど、長くなるので今日はやめときます笑。

 

 

8月はヤケなのか笑、韓国ドラマをまた見ています。見ればやっぱり面白いんだけれども、もう少し両手ばなしでドラマを楽しめる世になって欲しい…。

そして、月1ブログのつもりがだいぶ更新が遅れてしまっているので、なんとか頑張りたいところ。

 

いろいろあるけれども、休みながら、元気出していこうね!